かたつむり学舎のぶろぐ

本業か趣味か、いづれもござれ。教育、盆栽、文学、時々「私塾かたつむり学舎」のご紹介。

2022-03-01から1ヶ月間の記事一覧

私と公文式(11) ぼく、プロパガンダ

もちろん後になって聞いた話です。中新田の旧教室に通っていた頃は、私が広告塔として機能していたらしく、同級生を中心に入会者がけっこう増えて、母が先生にお礼を言われる、なんてこともあったそうです。そんなことに思い致すこともなく当時の私は、なん…

定点観測(11) Kちゃんのグローブ

指の独立は、ピアノをやる人間にとって欠くべからざる要件であるが、かつて飼い犬に指の肉を千切られてからはどうも演奏上の不便が多くなった。されどピアノをやるにしろ、やらないにしろ、人間どこかの時点で、利き手でないほうの指を器用に使うことを覚え…

軍隊学校之記(3) テスト・モシ・テスト

もとより覚悟のうえ、元々うちのじいさまがコースの設立に携わったこともあり、幼い頃から「あんだは進学コースさ」と育てられてきたわけで、ほかの選択肢をあまり考えることもありませんでした。(なんてキョウイクだろうか!?)強いていえば、私立高校ゆえ…

定点観測(10) 検定試験の借り猫

「お前さん、ンなとこ突っ立ってちゃだめだよ。後ろがつかえてるんだからさぁ、入るンならとっとと入らないと、みんなお前さんの後ろに金魚のフンみたいにくっついてホラ、受付できないで気をもんでるじゃないか」と声をかけても、鳩が豆鉄砲食らった顔して…

塾生心得 罪なケアレス 後編

テストであっても、それ以外の局面においても、見直しをする能力とは、実のところかなり高度な能力と言えます。自分の書いた答えをそのままなぞるのでは、見直しをしたことにはなりません。多くのケアレス民はこの点で、大きな誤謬を犯しているのです。ただ…

塾生心得 罪なケアレス 前編

ほんとは八十点台だったんですけど、ケアレスミスしちゃって・・・と、てへぺろな笑みを浮かべている生徒諸君、果たしてそのケアレスの発生原因について考えたことはあるでしょうか? この仕事をしていて一つ気がついたのは、ケアレスミスは起こるべくして起こ…

軍隊学校之記(2) 嗚呼、軍隊学校!

私が出たのは宮城県は古川駅前の軍隊学校、いや失敬、古川商業じゃなくて私立古川学園の進学コースというところです。古川学園といえば女子バレーでご存じの方もいらっしゃるかと思いますが、「進学コース」というのはまさに影の名物。この辺の人々には、ち…

教育雑記帳(4) 後から分かるから

教育において「分かりやすい」ことが金科玉条とされて久しい。簡潔な説明、明快な論理が導き出す分かりやすさは、教育現場のいかなる場面にあっても必要不可欠なものである。しかしながら、私にはこれだけだと何か物足りない気がしてならないのである。オト…

定点観測(9) 失われた店を求めて

「これ、ナニ屋さん?」 先刻まで順調に国語の教材を解き進めていた子が、こんなの知らないンですけど、という顔で尋ねるので、あやしがりて寄りてみるに、小さな指が八百屋さんのイラストを指して止まっている。答えを書く空欄には、実に自信なげな文字で「…

軍隊学校之記(1) 序

それなりな小金と、それなりなステータスを持っている人々が、ある日突然筆を執ってわざわざ自費出版する「自伝」だとか「わが成功の秘訣」なんてものに、たいてい面白いものはありません。ブックオフの投げ売りコーナーに二束三文で売られる背表紙を見るだ…

教育雑記帳(3) 職員室に灯を

とあるテレビゲームのなかで、亡者状態になったプレーヤーが「人間性」というアイテムを使うことによって生者に戻る、なんてシステムがある。するとパサパサのお肌と黄ばんだ白目が、在りし日の姿を取り戻し、筋力がアップしたり、協力者の助けを得られたり…

私と公文式(10) くもんが来た!

最近のCMで「くもんがうちにやって来る」なんてことを言っていますが、私の経験に比べれば、これはどこまでいってもメタファーの域を出ません。なぜなら、私はマジで公文が家に来た人なのですから。 大学生の夏のことでした。実家へ帰省したところ、そこに…

私と公文式(9) 母、開設する

「ボクはフツーに公文がやりたいんだけどなあ。」という不思議な感慨を抱く少年は、週二回おじいさんの車に乗せられて、わざわざ隣町の公文教室に通うことになりました。小学校の高学年あたりになって、突如私の母が公文の先生をすることになったのです。採…

定点観測(8) ロッカーの七賢

三人寄ればナンとやら。 そんなに早く教室に来るんじゃない、と言っているのに開室前のロッカーの上に学校の宿題を並べてやいのやいのとやっている。ここで宿題を片付けてしまえば、お家に帰ってあとはウハウハなのだ。そんな魂胆が丸見えになっているけれど…

塾生心得 明日の学問のために 後編

では改めて、現代日本社会を生きる私たちは、何のために勉強をして、何のために大学へ行くのでしょうか。私が考えるその答えは《学問を修めるため》です。 「いやいや、そんなキレイ事を」と言われるやも知れぬのは覚悟のうえですが、果たしてこれは、「キレ…

塾生心得 明日の学問のために 前編

なぜ勉強しなければならないのか、なぜテストで良い成績を取らなければいけないのか、どうして上のレベルの高校や大学を目指さなければならないのか――。学生ならば誰しも一度は、こうした疑問にぶち当ってぐるぐる苦悩した夜があるかと思います。 落語の小噺…

定点観測(7) 消しゴム男爵の登場

採点デスクの真ん前にぬうっと現れての第一声が「けっ、」だと、流石にビビる。消しゴム男爵と出会ったばかりの頃は、食いつかれるのじゃないかしら、と本気で思ったものである。 喉の奥から絞り出すようなロー・ボイスで、彼の報告は次のようにつづく。「け…

教育雑記帳(2) 「言はでも」の記

今日は、よくできたねぇ。と褒められてまんざらでない子供。とそこへ飛んでくるキラーフレーズ「いつもこうだといいのにねぇ。」に、心底戦慄させられる。たとうるならば、油断したところへの致命の一撃。ようやっと本日のお勉強を、いや子供にとっては本日…

私と公文式(8) イングリッシュ事始め

いまの英語教育の潮流が、少なくとも私の受けてきたものと全く違う潮目になっていることは、専門外の私にだってわかります。ふとした懐かしさから以前取り上げた、リピーターが過去の遺物となったことが物語っているように、英語の教材もガラリと様変わりし…

新 盆・歳時記(2) 植替えラッシュ

筋金入りの面倒くさがりな私でも、こればっかりは「そのうちになむ」ではいられない。うららかで良い奴だと思っていた春という季節に、「植替えるか、さもなくば殺すか」の物騒な二択を突き付けられて周章狼狽、ようやく庭へ出てみるけれど、あれもこれも植…

新 盆・歳時記(1) 土の準備

「この黄色い砂塵のひとつひとつに佛さんがいらっしゃって」、いつかどこかで耳にして以来、この作業をするたびに思い出すフレーズである。 盆栽用土 ふるいにかけて、そしてまたふるいにかけて、ひとつひとつ不純物を除いてやって、さらに乾燥させる。今年…

定点観測(6) トイレへ行く人々

「名人、二回目の考慮時間に入りました。」 悠然と退出していくそのカンロクは、まさにこんな場面の将棋指しを思わせる。 タイミングは決まっている。教室での勉強をはじめる前、一教科をきっちり解き終えたら、あるいは予想外の苦戦を強いられていよいよ煮…

教育雑記帳(1) 「しません」はしません

流行り病の少し前のことだったろうか。学校の塀沿いの路を歩いていると、ちょうど放課の鐘がなった。暖かい季節のことであるから、玄関からわき出した子供たちが校庭へ飛び出して、帰宅前のひと遊びに興じているところを横目に、よきかなよきかな、と通り過…

定点観測(5) 中ヌケ捕物帳

学校の教員稼業に区切りをつけたばかりのころは、情け容赦なく鬼平なみに取り締まったり、怒ったりしていたことがあったが、このごろはそのヌケてきた宿題の穴から、教室では見られない彼らの生態を興味深く観察して愉しんでいる自分がいる。 中抜けとは、宿…

盆・再考 空気みたいなアイツ

盆栽との付き合いならぬ「お付樹合い」がはじまると、仕事をしている間などは、水切れを起こしていやしまいか、とか今度の週末には鋏なんか入れて風通しをよくしてやろうとか、とかくアツアツなご関係になるものです。生活がかかっているガチ勢は別としても…

私と公文式(7) 弟、受難篇

食って遊んで寝る、これが小学生にとって(とは限らないけれど…)の悦楽の境地だとすれば、私の弟はこの禁断の果実を最初に全部食べてしまうのでした。するとこの後に待つのは彼にとっての紛れもない受難でありまして、今度は晩のごはんをたらふく食べて眠いの…

私と公文式(6) 弟、くもんをはじめる

下に無鉄砲なのがいる兄貴というのは得なものです。あっちがアホなことをしでかすと、こっちの立場は相対的に良くなる。ここまでやったら親が怒り出すというラインを見極めるにも、地雷原を勝手に走り回ってくれる弟の一挙手一投足は、私のよき一次資料とな…

定点観測(4) 獺祭ボーイと私

カワウソのお祭りと書いてダッサイと読む。非常に美味な酒の銘柄でもあるが、本来は物を書くときにあれこれとっ散らかすことを指す言葉である。 今日も私の目の前で獺祭ボーイが黙々と高校数学を解いている。累積した国数英のプリントの真ん中にこぢんまりと…

塾生心得 《分かる》を分かりたい

《分かる》とはどういうことでしょうか。 これはよく耳にする話で、私自身も上京した時に体験したことなのですが、大きな荷物を抱えて東京駅の新幹線ホームに降りたまではよいが「ハテ、どこにいけばよいのだっけ?」と途方に暮れたことがあります。前に来た…

盆・再考 盆栽は金持ちの趣味か?

ご年始の特番では、ここ数年、数億なんていう盆栽が出て来て、これとお菓子で作った模造木とを見比べるコーナーがお馴染みになっています。あれを観て「盆栽ってスゲェ!」「カッケー!」という形で興味を持ってもらえるのは、愛好家として嬉しいことではあ…