かたつむり学舎のぶろぐ

本業か趣味か、いづれもござれ。教育、盆栽、文学、時々「私塾かたつむり学舎」のご紹介。

エッセイ

自作解題「令和五年度サツキ展」➁

●イチョウ(銀杏/公孫樹) イチョウも盆栽になるのです。 この如何にも無策丸出しの形状をご覧下さい。おっと、ゆめゆめ横から見たりしてはいけません。くれぐれも正面から、そう、ひたすら鉛筆みたいに直立するアングルからご観賞いただきたい。 どうです、…

自作解題「令和五年度サツキ展」①

●はじめに 「サツキ展」なのに肝心のものを飾れないのは私の不徳の致すところであり、少し言い訳をさせてもらうならば、妻の腹に子供がある中で庭に殺虫剤を撒くのがちょいとばかし憚られたためであります。だからシンクイムシ達には、ずいぶんと施しをして…

新 盆・歳時記 ⑤

●棚場 盆栽達のホームグラウンド、それが棚場である。陽当たり、風通し、そして面積の三拍子が揃えば申し分ないけれど、不足分は各人が創意工夫と不断の努力(家族の説得)によって補う。 だからと言ってはナンであるが、棚場とは愛好家の性格を如実に映し出す…

新 盆・歳時記 ④

●愛好家のタイプ分類 ②育て屋 実生のケヤキが二百鉢。これはわが同好会において破られていない大記録である。 種からじっくり、時間と愛情をかけて育てていく喜びもあれば、挿し木をしたり数百円で手に入れた素材を丹精込めてつくっていく喜びもある。 タダ…

盆栽と暮らす(5) 樹を飾る

●ついつい忘れがちな・・・ 盆栽を「育てること」に夢中になるあまり、大事なことを忘れてしまっていた自分を発見して驚いたことがあります。それはズバリ「飾ること」であります。 良い樹をつくりたい、持ちたいという思いは、いかなる愛好家も同じ。そのため…

蝸牛随筆(38) ボンベさん

お題「子どもの頃に勘違いしていた、ちょっと恥ずかしいこと」 原曲は米国の「リパブリック賛歌」。これがどういうわけか本邦に持ち込まれると、たちまち毒にも薬にもならない歌に早変わりする。 幼稚園の帰りの会は、とにかくあれこれ歌ってさよならをする…

新 盆・歳時記 ③

●枯れる 誰かが言った。「盆栽は枯らして覚えるものである。」と。 かと言って、ガンガン積極的に枯らしても、何も得るところがない上に、棚場とやる気がドンドン寂しく減衰してくるばかりなので注意が必要である。 どうして枯れたのか、ショックを乗り越え…

新 盆・歳時記 ➁

●植え替え 樹のアンチエイジングに欠かせないのが、この植え替えである。 根の状態は、その樹の現状を映し出す鏡と言っても過言ではない。だから痛んで悪くなった部分を取り去り、幅を利かせてわだかまっている太根を追い詰める。若くて肌理細かな根の充実し…

育児漫遊録(16) 授乳夜話 Ⅴ

まずミルクをつくり、水を張った容器にドブ漬けする。しかるのちにゆっくりオムツを替え、低い音でジャズなどをかける。そんなことをしているうちにドブ漬けしたミルクがいい塩梅に冷めている。 わざと壁に向けたベッドサイドの灯りが間接照明になり、彼が好…

蝸牛随筆(37) 相撲を観ながら Ⅱ

私の先生はよく研究室で相撲をかけながら、メールの返信作業もそこそこに、あらぬ方向に首を曲げて寝ていたものである。もしかすると相撲中継の、あの呑気さ八割に聞こえるアナウンスには視聴する人をして眠気を誘わしむる効果があるのやもしれない。 四限の…

蝸牛随筆(36) 相撲を観ながら Ⅰ

相撲がはじまると、ああこの季節が来たという気分になる。夕方の四時から六時まで、耳慣れたアナウンスとさざ波のような歓声を聞きながら、本を開いているのが私にとって現時点でいちばんのゼイタクである。 もちろん一五日間の場所中、毎日相撲中継が観られ…

新 盆・歳時記 ①

●水やり レベル一、枯らさないようになること。レベル二、水やりが日常の一部と化すこと。レベル三、鉢ごとに時間差で水をやりはじめる。 レベル四、離れていても一鉢ごとの乾き具合がなんとなく分かってしまう。 かくして盆栽ライフの土台は作られていく。…

蝸牛随筆(35) でんしすと Ⅹ

結果から申し上げると、私の歯は見事に白さを取り戻した。それは谷崎の『痴人の愛』においてよく言及される「西洋人」的な白さではなく、飽くまで襤褸に包まれてこそのくすんだ白さなのだろうが、口腔という仄暗い空間にすっと浮かび上がる白さのつきづきし…

育児漫遊録(15) 授乳夜話 Ⅳ

私はミルクも乳も飲まなかったと言う。 幸いにして我が子は私に比べればどちらもいける口であるし、その点だけでも遙かに育てやすいはずだ、と私の母親は言う。そうは言っても目の前で火の付いたように泣きしきる新生児と相対する午前三時は「すさまじ」とし…

育児漫遊録(14) 授乳夜話 Ⅲ

まずはオムツを替える。しかるのちにミルクを作って冷まし、泣きしきる我が子を抱き上げる。彼は「赤べこ」みたいに据わらぬ首を闇雲に上下左右に振り回しつつ、真っ赤な顔してこの世の終わりみたいな風情で暴れている。 どうどう、どうどうと宥めすかすより…

盆栽と暮らす(4) 水をやる日々 Ⅲ

●あなたはディップ派? 埋める派? さて、愛する盆栽を水切れさせないための次なる手として考えられるのが「トレイに漬ける」方法であります。 底穴が浸かるくらいに水を張ったトレイに鉢を並べておけば、水が干上がらない限り、いちおう水切れを防ぐことが…

盆栽と暮らす(3) 水をやる日々 Ⅱ

●「オレの樹に水をやってくれ!」の注意点。 盆栽の水やりにおいて、こればっかりはなかなか自由の利かないものがあります。 それが「旅行」「長期出張」をはじめとする、二三日のあいだ家を空けねばならぬシーン。これは盆栽と暮らしていていちばんの泣き所…

盆栽と暮らす(2) 水をやる日々 Ⅰ

●水やりもまた 趣味家がするという盆栽というものを、これまで無縁だった自分もしてみよう、と思い立った人が第一に突き当たる障壁が「水やり」というものではないでしょうか。 盆栽は水をやれなくて枯らしてしまいそうだからサボテンにする。というのは結構…

盆栽と暮らす(1) 序

「盆栽と暮らす」ことについて、はじめて自覚的にモノを考えるようになったのは、つい最近のことです。それまでの十年は当たり前のように盆栽と生活を共にしてきたわけですが、子供が生まれたことをきっかけに、改めて「盆栽と暮らす」ことの様々な側面を見…

育児漫遊録(13) 授乳夜話 Ⅱ

「そんな苦労も今ならではの苦労だから」と言われたこともある。なるほどこれは一理ある。私の頭が白くなったあたりに、目尻をだらしなく垂らすなどして、この息子や孫にそんな事を申しているような気がしないでもない。 さはれ頭では分かっているけれど、実…

育児漫遊録(12) 授乳夜話 Ⅰ

陽水の「リバーサイドホテル」に「夜の長さを何度も味わえる」というのがあったかと思う。果たしてそれは「ベットの中で魚になったあと、川に浮かんだプールで一泳ぎ」する二人の甘美な世界を詠うものなのだろうが、ふと私がこの一節を想起したのは激しい眠…

蝸牛随筆(34) でんしすと Ⅸ

クリーニング。そうだ、私はそれをしてもらいたかったのである。それがために家人は私をして、早く歯医者へ行け、行けと促し続けたのである。 元来、一日数杯はコーヒーか紅茶を喫しなければ気が済まない私は、いつのころからか自分の歯に色が付いてきたのを…

蝸牛随筆(33) でんしすと Ⅷ

「歯茎の後退が少し見うけられますね。」と言われてショックを受けない人間があろうか、いや、あるはずがない。 十年来私が実践してきたナントカ法は、ちゃんとブラシが届いている部分にはめざましい効果をもたらしていたようであるが、そうでない部分につい…

文房清玩(8) 定規 Ⅲ

●本に線を引く用の定規 私は普段から本に線を引く。そうやって取っかかりを作っておくと、後から要所要所の議論に戻ってきやすいためである。専門書はもちろんのこと、小説にだって線を引いて自分の〈読み〉を立てる際のアウトラインを作っておかないことに…

文房清玩(7) 定規 Ⅱ

●大きな三角定規 私は国語の教員をやっていたことがあるけれど、実際にこれを使ったことがある。子供の時分から学校の先生が使っているのを見て、一度はいじくってみたいと思っていたのが、ひょんなことからようやく使う機会を得たのである。 三角定規片手に…

文房清玩(6) 定規 Ⅰ

定規。いつも筆箱の底の方で意外と嵩張っているものだからフタが閉まらない原因にもなれば、お呼びでない日もしばしば。単元によってはしばらく日の目を見ない日だってあるし、長じてフリーハンドで関数のグラフを書くようにもなれば、およそ第一線から退い…

蝸牛随筆(32) でんしすと Ⅶ

はじめて歴とした歯科検診を受けて叩き出した「スコア」は、ずばり「磨き残し」のスコアであった。つまりこれが高ければ高いだけ、歯を適切に磨けていないということであり「61%」なんて数字に一瞬たりともぬか喜びした自分を激しく叱責してやりたくもあ…

蝸牛随筆(31) でんしすと Ⅵ

普請の建て付けを確認するかのように、私の歯が一本一本グラグラと揺すられている。先ほど私の歯茎を散々突き散らした切っ先に代わって、今度は鈍器のような太い金属の棒である。 これは「動揺度」というものを測る検査らしいが、私の心の動揺度は凄まじいも…

育児漫遊録(10) 沐浴エレジー Ⅲ

赤ん坊用のバスタブに湯を汲み入れる。そのうちに彼を風呂桶の蓋の上に寝かせて、身ぐるみ剥がす予定であったわけであるが、コトはすんなりと進行しない。 ふにゃふにゃと直ぐにその所在が分からなくなる腕は奇しくも頑強に肘を突っ張って、脱がせようとする…

蝸牛随筆(30) でんしすと Ⅴ

私の肝いりの「爪楊枝」は、歯科衛生士のお姉さんにあっけなくスルーされた。伝統的な歯科衛生法の決定的な敗北である。がっくり肩を落とした浪人風情の男が、楊枝を咥えていづかたへか去って行く姿が脳裏を過った。 「では、ちょっとお口の中確認していきま…