かたつむり学舎のぶろぐ

本業か趣味か、いづれもござれ。教育、盆栽、文学、時々「私塾かたつむり学舎」のご紹介。

盆人漫録

盆人漫録(39) え? 切るの?

自分が持ち込んだ教材を各人それぞれ作業することもあれば、誰かが持ってきた樹を合議にかけてやいのやいのと手を掛けることもある。時には害虫の話が各人の野菜作り相談会と化すなんてこともしばしばですが、それもまた貴重な情報交換。わが古川盆栽同好会…

盆人漫録(38) 赤松レスキュー Ⅲ

「なにやら見覚えがある・・・」と、私が矯めつ眇めつその赤松の一鉢を検分せねばならなんだのは、私の記憶の中にあったその往時の姿と今の姿とが、およそかけ離れてしまっていたがためだったのです。 かつて青々と繁りかえっていた樹冠部の枝は全て枯れ上がっ…

盆人漫録(37) 赤松レスキュー Ⅱ 

そんなでもないさ、と思って取りかかる作業ほど泥沼化することは、ベトナム戦争の例を引くまでもない。 「鉢は、庭のあっちこっちに転がってあるから、どれでも何個でも欲しいだけ持ってってくれ」というお言葉に甘えて、お庭に分け入ったわれわれを待ってい…

盆人漫録(36) 赤松レスキュー Ⅰ

「ウチの鉢と、残った樹を引き取ってくれ。」 という盆栽仲間からの依頼は、残念ながら一度や二度ではありません。年齢的なものや健康上の理由から、どうにも盆栽を続けていくことがままならなくなる時は、いづれの愛好家にも等しくやって来るのです。 果た…

盆人漫録(35) ベニモンアオリンガ! Ⅲ

シンクイムシという厄介者の存在は知っていたけれど、実のところその本体を目の当たりにして「こいつがシンクイムシで、ベニモンアオリンガの幼虫である。」と確認したことはありませんでした。 何せ、葉っぱの状態を見て虫がいると分かったら(いや、分かっ…

盆人漫録(34) ベニモンアオリンガ! Ⅱ

そういえば、先生は去年の今時分もホワイトボードに「ベニモンアオリンガ(シンクイムシ)」と記していなかっただろうか。そんな遠い記憶が、デジャブのようによみがえる気がしないでもない月曜日の午前中。 同好会のメンバーはそれぞれのサツキを前に、ぱちり…

盆人漫録(33) ベニモンアオリンガ! Ⅰ

われらが顧問、平先生には足かけ十年わざわざ隣町からお越しいただいている。 サツキ展後の教室は、毎年恒例の大剪定大会となるわけで、咲き終わった花を全て摘み取って、今年の春からぐんぐん伸びた芽をだいたい元の位置まで切り詰める作業に追われます。 …

盆人漫録(32) 同好会のイジ

さぁ、大変です。 今年もやってきた「令和五年度サツキ展」に、私が出すサツキが無いのは毎度のことながら、そんなことよりも大変な事態がわれわれ同好会を見舞ったのであります。 それは深刻な人手不足。不慮のアクシデントによって、会場設営や展示準備を…

自作解題「令和五年度サツキ展」①

●はじめに 「サツキ展」なのに肝心のものを飾れないのは私の不徳の致すところであり、少し言い訳をさせてもらうならば、妻の腹に子供がある中で庭に殺虫剤を撒くのがちょいとばかし憚られたためであります。だからシンクイムシ達には、ずいぶんと施しをして…

盆人漫録(31) ゴロ土とは何か。

愛好家が二人居れば互いの棚の近況について話がはじまる。愛好家が三人居れば、もそっと込み入った話がはじまる。「ところで、ゴロ土って皆さんどうしてます?」と何気ない問いがわが盆栽同好会の「土トーク」の最中に転がりでました。 「ゴロ土」と言ったら…

盆人漫録(30) ブレンダーの集い

「私はあと、富士砂かなぁ。」 「ほぉ、自分は何となく矢作砂ってやつを入れてます。」「ボクは赤玉と桐生だけだなぁ。」「日向って人もいるね。」 各人配合の割合はそれぞれ。基本の赤玉土と桐生砂の割合が「5:5」「6:4」と分かれるのは、棚場ごとの…

盆人漫録(29) 樹育てと子育て

私のよく知る愛好家が、このところ人の親となったそうな。この間の同好会に眠そうな顔をして出席していらっしゃったので、近況をお聞きした次第であります。以下聞き書き。 このところ育てているものが増えてしまいまして、日々えらいことですよ。「育てる」…

盆人漫録(28) 同好会と多様性

そしてこれはこぼれ話。 佐々木さんに例のレジュメをいただいた席上、嬉しくって早速紙面に目を走らせていたところ、佐々木さんが小走りで駆け寄って来られる。 「宮川さん、それはどうか家で読んでくださいよぉ」と謙遜しておられるから、いやいやこれは本…

盆人漫録(27) 盆栽ゼロ年

年明けの盆栽同好会で、思いもよらぬ物をもらいました。 挿し木をしたポット苗や、「ちょっと棚の整理に協力されたし!」と譲りうける鉢の類いではありません。実にそれはプリントアウトされた文章であり、制作者は昨年同好会に入会された佐々木さんでありま…

盆人漫録(26) 自然を愛する男

それは、一対一のガチンコ対面でありました。 午前中の当番だった私が、展示会場である「蔵」の扉をギギギと開け放つと、そこに見知らぬ「景色」が広がっていたのです。 その「景色」の中を彷徨う私の視線は、まず以てその鉢の中に強烈な存在感を放つ「灯籠…

盆人漫録(25) ニューフェイス

今はどうしているのやら。 彗星の如く盆栽同好会に入会してきた大型新人。その肩書きは「植木屋さん」とあって、トレードマークのサングラスを、一同畏敬の念をもって眺めたものでありました。 聞けば盆栽もお持ちのようで、樹を知り尽くした本職が育てる盆…

盆人漫録(24) 冬のドナタ

出会いと別れ、わが同好会にとってそんなテーマの一年が暮れようとしています。 毎年発注している盆栽カレンダーを、同好会に出席できない会員の家にお届けするのは、けっこう大切な行事でもあります。身体の具合はどうか、盆栽も元気であるかを確認して、暮…

盆人漫録(23) そして誰もいなくなった

これは、ひょっとして、孔明のワナかしら。 はるばる同好会ご一行様が到着した「盆栽交換会」会場には、車の一台、人の影すら見当たらない。一応、ここは園芸店であるからして、庭石なり盆栽の数鉢こそあれ、肝心の店主の姿もありません。 鳴子の山を少なか…

盆人漫録(22) 空城の計?

かつて諸葛孔明は、空にした城の楼上に琴を弾き、詰めかけた敵軍をまんまと欺いたそうな。 盆栽愛好家なら知っている専門誌『近代盆栽』には、毎号必ず全国各地の展示会情報が掲載されています。これを頼りに、われわれ愛好家はまだ見ぬ樹と同好の士との出会…

盆人漫録(21) 語り合い・秋

あんなにいつも、自分の戦車模型を錆びさせたり、わざわざ「古さ」を出そうなんてしているクセに、こんな時に限って舎利のウェザリングを失念するとは、私もまだまだ甘ちゃんであります。 そんなこんな、三日間の展示でお客さんは百数十人。終わりかけた日曜…

盆人漫録(20) 十人十白?

あはれ今年の秋も去ぬめり。秋の展示が無事に千秋楽をむかえると「ああ、今年も終わったなぁ。」という感慨が、つい口の端からこぼれてしまいます。 「いやいや、あなた、まだ二ヶ月あるから」と家内にツッコまれつつ、つらつら思うに、やっぱり今回の展示に…

盆人漫録(19) コンクリート事件

沼田さんが教室に持ち込んだ初見の五葉松。寝起きみたいな頭で、ところどころ枝がトンでいるものの、どうして葉性も古さも悪くありません。 講師の平先生が来たら手をかけてもらうのだ、といつもの他力本願っぷりを発揮していますが、そこに連絡が入って本日…

盆人漫録(18) 緑のチューブのあれ

それは、今回もまたはじめて同好会一同の前にデカデカと姿を現した、沼田さん所蔵の五葉松でした。 何なの? 沼田さん家はいったいどうなっているのだろう? と誰もが首を傾げる中「おっこいしょっと!」という気合いとともに十二、三号はある鉢を持ち上げる…

盆人漫録(17) ビックリドッキリ盆栽

今週のビックリドッキリ盆栽はこちらです! とばかりに持ち込まれましたる「知らない樹」。 やっぱり蔵者は、わが同好会でも随一の「集め屋」の異名を取る沼田さん。 「こいづ、どっから持ってきたの?」と尋ねられても、沼田さんはニコニコしながら首を傾げ…

盆人漫録(16) ヒマジンですが何か?

デパートにおける「何かお探しですか?」的な接客がどうにも苦手な私。 だからお客さんが樹を見ている間は、さて自分の展示の前で立ち止まってくれるかしら、と横目でお客さんの流れを確認しつつ、自分の作業をするというのが近頃の定番です。 別に派手な改…

盆人漫録(15) 盆栽人の粋

近隣の盆栽会の顔なじみが尋ねてきてくれるのも、展示会をやる愉しみのひとつであります。 朋ありて隣町より来る。リポビタンや缶コーヒー、エンゼルパイの差し入れを引っ提げて、陣中見舞いに来てくれます。 このごろのコロナ流行りのせいで、久しく行き来…

盆人漫録(14) 構ってちゃん登場

もちろん展示を見に来てくださるのは、盆栽愛好家の方々ばかりではありません。そんな方々にこそ盆栽の面白みを発見してほしい、と展示会をやっているわけなのですが、やっぱりどうして、困ったお客さんというのもあります。 エー、そんな中には随分とエバっ…

盆人漫録(13) そのお客、玄人につき

かつての酒蔵を改装して、少しく気の利いた照明設備を取り付けたギャラリーが、私たちの展示会場、その名も「蔵」であります。 一時期は図書館にまで進出したわれわれ同好会でしたが、会員減少=鉢数のいかんともし難い減少には抗えず、もとの鞘である「蔵」…

盆人漫録(12) 壮絶なるDIY

Do It Yourself. 「自分でやってみたまえ!」それが、DIYの精神であります。 そんなことを言うものだから、マジで盆栽園並の配管設備を庭に拵えてしまう愛好家が出てくるというもの。 徳江さんの棚場に参集した同好会の一同が目にしたのは、庭の隅から隅…

盆人漫録(11) 枯らすまじ奮闘記

あんなにフットワーク軽く、気の趣くまま自在に方々を駆け回っていた徳江さんが、市役所の大階段から落っこちて病院に担ぎ込まれたという報せを受けた一昨年の秋。 命には別状なしとのことではありましたが、足の骨を大々的に折って数ヶ月の入院を余儀なくさ…