かたつむり学舎のぶろぐ

本業か趣味か、いづれもござれ。教育、盆栽、文学、時々「私塾かたつむり学舎」のご紹介。

定点観測(2) ごはん粒便り

 宿題の採点とは機械的な作業であるけれど、機械にはとうてい向かない作業である。
 その筆跡から、彼や彼女の調子をみる。その筆圧から、その宿題を書いた日の気分だとか、やる気のほどを想像する。そしてプリントにくっついているごはん粒から、だいたい何時ごろにどこでどんな風に公文をやったのかに想いを致す。
 ポテチを食べながら書いたものには油のシミ、あとは引っ付きやすい醤油せんべいのカスが定番だが、チョコレートのべたべたは流石に勘弁してほしい。寝転がって書いたものにはフローリングの継ぎ目のあとが、そして何より畳の上でやったプリントは一発で分かる。畳の目がつける特有の濃淡が、その日の彼らの様子を洗いざらい証言してくれているかのようである。(諸君、全部バレておるぞ!)
 気の向く日、そうでない日は大のオトナにだってある。要はいかにして「そうでない日」と付き合っていくかにあるのだ。プリントのシミやら文様は応にして、彼らと「そうでない日」の戦いの記録と言ってよいのかもしれない。気分的にアゲインストの風が吹いた日も、子供たちは子供たちなりに食事タイムを挟んでみたり、菓子を食ってみたり、普段と違う姿勢や場所で勉強してみたり、何とか自分を立て直して日々の仕事をこなそうとしているのである。
 ごはん粒に採点ペンが当たって丸がへんてこにゆがむ時、教室まで連れてきた菓子のカスをそっと捨ててやる時、私は彼らの涙ぐましい試行錯誤を想い、少しくふき出して後、大いに同情する。異物を検知したり、ぼこぼこの字が読み取れなかった時、機械はエラーをだすばかりだけれど、私はそのごはん粒便りに同じ人間として、そこはかとない愛おしさを感じてしまうのだ。

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