最近のCMで「くもんがうちにやって来る」なんてことを言っていますが、私の経験に比べれば、これはどこまでいってもメタファーの域を出ません。なぜなら、私はマジで公文が家に来た人なのですから。
大学生の夏のことでした。実家へ帰省したところ、そこに見慣れぬ建造物が建て増しされていて、「なんぞ、これ?」となったことを今でも生々しく覚えています。かつて車庫兼物置として使っていたガレージに、謎の外付け二階建て構築物がカスタマイズされていて、東北の夏の日にちょっと眩いたものでした。地元の相棒からのメールで、我が家で何かの計画が進行していることは薄々察知していたのですが、まさかこんなことになっていたとは思わない。私が通った中新田の旧教室は閉室となって久しく、隣町で開いた母の教室が安定してきたことを機に、地元での(まさかそれが我が家だとは思わなんだが)二教室目の打診があったのだとか。
まあ、どうせ公文とはずぶずぶのナカであるし、いつかはこうなるだろうと思っていましたが、公文がマジで家に来たことによって、少なからざる変化が出てきたことは確かでした。
「えー? ここ、くもんの先生のウチー?」は日常茶飯事でしたが、時たま「オーイ! 公文のセンセー出てこーい!」と大音声に呼ばわるアンポンタンもいれば、「くもん、いくもん♪」と歌いながら看板を叩いていく無礼者もある中で、本宅を訪ねてくる変わり者もありました。
夏の日に庭先へ止まった、赤い子供用の自転車。開け放した玄関先に見慣れたヘルメットボーイが降りたつ。まだ開室まで一時間以上あると云うのに、彼は「もう、来ちゃった」と言うのです。教室は冷房を入れたばかり、汗をぶったらしてやってきた彼に「帰らいんわ」というわけにもゆかず、お昼のスイカはプラス一人分少なくなったものでした。