かたつむり学舎のぶろぐ

本業か趣味か、いづれもござれ。教育、盆栽、文学、時々「私塾かたつむり学舎」のご紹介。

定点観測(10) 検定試験の借り猫

 「お前さん、ンなとこ突っ立ってちゃだめだよ。後ろがつかえてるんだからさぁ、入るンならとっとと入らないと、みんなお前さんの後ろに金魚のフンみたいにくっついてホラ、受付できないで気をもんでるじゃないか」と声をかけても、鳩が豆鉄砲食らった顔して戸口に立ち尽くす少年、若干七歳。彼は今日初めて検定試験というものを受けにやってきたのだが、いつもと違う教室が会場とあっては、いよいよ場の空気に気圧されてしまったらしい。仕方がないからそのまま戸口から平行移動させて受付に立たせてみる。いくら勝手知ったるウチの教室の教え子だからとはいえ、ここで試験を受ける手続きを省略してしまっては本人の為にならない。試験を受けに来て、試験をやって帰るという一連の流れを経験させることが、子供にとっては重要な社会勉強の一環なのだ。
 「君は何級を受験するのかね?」「えーっと、七歳です。」「君の年をきいてるのじゃないんだ。受験する級のことをきいているのだよ。」「ちゃんとお勉強してきました!」「そりゃ当たり前ぇだ。それで何級を受けるのだね?」「ばあばは、九級でもいいんじゃない? って言ったんだけどね。」「ばあばのコメントはいいんだよ。お前さんの受験級がいま求められているのだよ。」「あ、ぼく受けるやつね。あれ?」「え、どした?」「ナン級だか忘れちゃった!」
 という問答のおかげで、後ろに列をなして一部始終を聞いていた他の受験者諸君もだいぶ緊張が解けた様子であったけれど、私的にはもう少しザ・試験感を出したかったわけで、この検定試験の借り猫にはまだまだ手がかかりそうである。

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