かたつむり学舎のぶろぐ

本業か趣味か、いづれもござれ。教育、盆栽、文学、時々「私塾かたつむり学舎」のご紹介。

定点観測(20) 進撃のうさ子

 うさ子はずんずこ進んでくる。教室の人混みも障害物もお構いなしに突破してきて、お目当ての教具を確保したらまた一直線に席へ戻ってくる。

 拙宅の居間にある、なにかもの言いたげなウサギのぬいぐるみが、ひとりして歩いたり喋ったらこんな感じなのだろうな、なんて話をしているうちに、図らずも彼女は私たち夫婦のあいだで「うさ子」になったのである。

 さて、このうさ子ちゃんであるが、めっぽう頑固ときている。つぶらな瞳の黒目が確固たる意志で「きょうは、おんどく、やらないのよ。」と言っている日は、ビタ一文字読んではくれない。仕方がないから妻が、二十枚一束の音読冊子を読み上げてやる役回りになって「ウシガアルク、ウシガアルク、ウマガハシル・・・」とやっている。それでもちゃんと座って、冊子を眺め、読んでいる妻の様子を眺めつつお利口に聞いているわけであるから、それはそれでよいのである。

 だけれど先日、この音読嫌いで知られるうさ子ちゃんがはじめて算数をやった。教材には果物や乗り物、動物が並んでいて、指さしながら数をかぞえましょうという指示がある。はたして興味を示してくれるだろうか、と私も妻も固唾をのんで見守っていたところ、例の黒目がキラリと光った。

 「ウマガハチル、ウマガハチル!」流石に度肝を抜かれたけれど、そう来たか! と思った。プリントには馬が七頭ほど並んでいて、なるほどどの馬も健康状態が良さそうで、今にも出走しそうな感じではあるが、一体何でそうなったのか、お分かりいただけただろうか? 

 ここにおいてうさ子ちゃんは、この算数プリントを音読プリントだと思ったのである。こちらも食い気味に「いやいや、ちがうちがう」とやさしくツッコミを入れたけれど、これはひとつに彼女が、読んでもらった音読教材の言葉をちゃんとインプットしていたことの証でもある。算数をさせたかったのだけれど、なぜか国語の成長が確認されたうさ子なのであった。

 うさ子は今日もまたずんずこやってくる。そして今日もまた、思いもよらぬ進撃が期待されるうさ子との日々である。