教室の顔は、何と言っても指導者でありますが、教室の雰囲気をつくるのは、やはりあの採点スタッフなのではないか、と私は思うのです。
あしかけ三十年、生徒として通っていた時代から今に至るまで、実に様々な採点のおばちゃんや、お姉さんに出会ってきました。公文の先生が判で押したように女性ばかりなのは、オトナの事情によるものだけれど、こと採点スタッフについては勤務時間の関係上、自然と奥様方が主流になるわけで。中でも忘れがたい人は、と数え始めるとキリがありません。
今となっては、仕事の正確さやスピードだとか、子供への対応の巧拙でこの人々を見るようになってしまいましたが、あの頃の私はそんな可愛くないヤツではありませんでした。絶対の信頼と言いますか、頼みの綱と言えばよいのか、ともかくも子供にとって優しい採点のおばちゃんは、困ったときの駆け込み寺的な存在。
バツが二重三重に積み重なって『今日、おれは家に帰れないんじゃないか』となった時、そっと赤ペンで文章に線を引いて答えを示してくれたりする。まさにそれは一筋の光明であり、蜘蛛の糸だったわけですが、今の私的にはちょいアウトでもある・・・(笑)。
幼なじみの子のおばさんで、バブリーなパーマをあてたヘアーをなびかせて、いつもメイクがばっちりきまっている。先生に挨拶して宿題を出して、できればおばさんのお隣に座る。土日にあったことを話し、今日学校であったこと、明日の予定を話し・・・一体私は何をしていたのだろうかと思うが、そんな取り留めのない話しを聞いてもらっている最中にも、規則的な赤ペンの音が途絶えることはありませんでした。
忘れ得ぬ人々、それは子供心に感じた、素敵に包容力をもったオトナなのやもしれません。さて、今の私はあのおばさんのように、子供のたわいもないあれこれの言動を優しく受けとめられているのかしら。仕方がないから今日も取りあえず、ひたむきに机へ向かう子供達のあいだに分け入ってみようと思う次第です。