とあるスイミングスクールで、二桁を超えるクラスターがあった。
その煽りを食って、管内の小中学校が軒並み閉まると、今度はウチの教室も開けなくなる。
教室が閉まると、子供がかけ算を忘れる。
そして久し振りにやって来た、かけ算を忘れた男が寝起きみたいな顔して、かけ算の筆算教材を前に固まっている。
教室が閉まる前には、確かに九の段まで諳んじていたはずなのに、いったいどうすればそんなにキレイさっぱり、かけ算を一、二のポカンで忘れられるというのか。
「教室が休みの間中、宿題もほっぽらかして、ゲームばっかしておったのだろう」
と問いかけると、プリントの少し上方の虚空を彷徨っていた黒目が、ちょろりと泳いだ。
どうやら図星であったようだ。
そんでもって、このかけ算を忘れた男の様子を横から心配そうに見つめるその兄の、お留守になっている手許を覗くと、なるほどこちらも「移項」を忘れた男になっている。
さてどうやってスイッチを入れ直したらよいものか。幸いにして兄の方は、辛うじて宿題をこなしてきたこともあり、ちょっとやって見せたら間もなく平常ダイヤに復すことが出来た。
こんな風にこちらから積極的に介入して調子を戻させる手もアリ、っちゃあアリなのだ。
だけど、やっぱり一番の妙薬は、失われたリズムを取り戻すこと。毎日の生活の中に、お勉強の習慣を復活させることなのだ。
今日は忘れていても、そんなことをやっているウチに「なぁんだ」と記憶が戻ってくるのも公文生の良いところである。
とまれそろそろいい加減、こんな事案を憂うことのない日々の到来が待たれてならない。