かたつむり学舎のぶろぐ

本業か趣味か、いづれもござれ。教育、盆栽、文学、時々「私塾かたつむり学舎」のご紹介。

盆・再考 展示会報告 自作解題

〇序

 サツキ展ではあるけれど、飾るサツキがありません。
 「全部太陽のせいだ」とうそぶきたいけれど、会員減少のみぎり、何か出さないとはじまらない。それで今回は一人だけ、開き直って初夏の展示を決め込んだ次第です。
 それぞれの鉢に〈物語〉あり。樹とその一鉢にまつわるエトセトラを合わせてお楽しみいただければ幸いです。


○真柏

 今回ともに展示をするはずだった、亡き沼田さんを偲んで。
 沼田さんが持っていた親木の剪定枝を挿して五年。つい先だって、ご本人にようやくお目見えが叶った矢先のことでした。
 「かっこいいなぁ、それどっから買ったの?」なんて尋ねた、くったくのない笑顔。いくつもの思い出と共に、そして樹と共に、とりあえず明日の方へ向かって。

○ニレケヤキ(楡欅)

 あれは去年の冬の日。カインズホームの棚下で、凍えていた裸木を救出した。
 簡単に骨格を作って、ビニール温室に格納して春を待ったら、なかなかな優等生になって棚場にデビューしてくれた。
 今日も私は二匹目の泥鰌を捜して、ホームセンターの棚場をぶらり。

○ウチワカエデ

 良くも悪くも、こんな樹です。『盆栽世界』の頒布でわが家にやってきた時から、こんな感じ。
 電柱みたい? いやいや、電柱が傘さしているみたいでしょう?
 ちょっと体調が優れない樹に、そっと傘をさしてやる優しいヤツ。そして、教科書通りじゃない樹を愛でることを教えてくれた樹でもある。

○シロメサワラ(白芽椹)

 なんとこの方もカインズホーム出身。ここはホーマック産でバランスを取るべきだったか・・・。
 とまれこの時期が一番の見せ場なのだから仕方がない。
 やわらかな新芽は、六月の雨がよく似合う。燦々と降り注ぐ雨滴と戯れるかのごとく、それは白くうち光って。

○ツタ(蔦)

 鉢の裏を打っ欠いているけど、見ないでね。
 都合の悪いところは、自慢の前髪で隠すのがツタ的な流儀である。
 今年はアシンメトリーを採用したとのこと。
 東京は上野育ち。運悪く東北新幹線で連れてこられてこの方、展示会には毎度のご出展。ホント、助かってます。いつも、ありがとう。


○ギョリュウ(御柳)

 飾り棚をひとつの深山に見立てるならば、その山と山のあいだに流れるのは、一筋の清流であろう。
 川べりの風景と言えば柳。これはちと安直だろうか。説によれば楊貴妃の愛した柳であるとか。ならば川べりは川べりでも、ここはひとつ山水の風情を採用するというのは如何か。

○添景 香炉

 遺愛寺の鐘は枕を欹てて聞き
 香爐峰の雪は簾を掲げて見る

 喩うるならば、深山幽谷。遙か高楼を臨めば雲靉靆として人跡は稀である。その山々のあわいを縫って清流が奔り、川辺では銀と光る柳の枝葉が佳人の品をつくっている。


イワシ

 新緑の季節にふさわしい一鉢であり、秋の紅葉を愉しむにも、まさにもってこいの一鉢。
 だから秋の展示会に引き続いての再登板。
 それでも左に流れ気味だった頭を、心持ち右に切り返したり、何かとマイナーチェンジを繰り返してきた苦労人。

糸魚川真柏

 ファーストコンタクトは二二〇〇円の値切り札、セカンドコンタクトは一六〇〇円の見切り札。
 最初の三年で寝たきり状態だった幹を立てて、次の三年で何とか見られるまでにはなった。
 さて、これからの三年でどこまで行けるだろうか。樹と共に生き、互いに経てきた時間を分かち合う、それが盆栽という趣味なのかも知れない。