与えられた教材と課題とを、きちんと解ききって帰る。それが教室にやってくる子供達の仕事である。
だから自然と子供達も、教室で出されるものについてはあんまり文句を言わない。それでも自分の席に椅子がなかったりというような、明らかな異変があれば、さすがに何か行動に移して欲しいところである。
「ムム、今日の戸は通りづらくあるナ」という顔をして、戸口でヘンテコなカニ歩きしている御仁がある。ご存知消しゴム男爵の登場であるが、そんなにしないで普通に開けて通ればよいものを、誰かが半端に閉めた戸の隙間のキッツキツなところを、むりくり通ろうとしている。
きっと彼の中では、今日は何か「深きゆゑ」あって戸を半開きにしている、ということになっているのであろう。まったく以て、本日も実に心にくい登場ではないか。
続いて、おもむろに鞄を開けて取り出しましたのは・・・と、一連のルーティーンを見守っていた私はここで息を呑んだ。見れば、向こうで別な子を見ていた妻も、彼の異変を察知して私と同じ顔をしている。
なんと、彼の鞄から筆箱が出てきたのである。それもトイストーリーの、とっても可愛らしい筆箱が。
読者諸氏はここで、「別に何を筆箱ごときで」と思われるやも知れないが、これは至極稀なことなのである。妻と教室を始めて三年目になるが、これまで彼の筆箱が確認されたのは、一度きり。つまり、これが二度目の観測となるのである。
その一度も、きっと何かの見間違えであろう、という見解が主流となりつつあったなかでの、筆箱の再登場は私と妻の度肝をスパンと射貫いたのであった。
換算すると年に一回あるかないかのレアケースに遭遇した感動がいまだ覚めやらぬなか、消しゴム男爵が確たる足取りでこちらへ向かってくる。なにせ、今日は消しゴムもシャーペンも忘れたわけはないのだから。
さて、それにしても、何か言いたげにこちらを見ているのは如何なることにや。心して待った第一声は「三日分の宿題の二日目の分と、宿題をはさんでいたファイルを、忘れました。」
もうどこからツッコめば良いのか私には分からない。寧ろ、どうやったらそこだけピンポイントで忘れるウルトラCを決められるのやら、折角の筆箱登場という吉祥を、すかさず別の忘れ物で以てプラマイゼロにしてくるバランス感覚は、なかなか余人にマネ出来るものではない。
と感心している場合ではないのであるが、まあ可愛いから許すことにする。
katatumurinoblog.hatenablog.com
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