かたつむり学舎のぶろぐ

本業か趣味か、いづれもござれ。教育、盆栽、文学、時々「私塾かたつむり学舎」のご紹介。

盆人漫録(5) 梅田さんの宝船

 鍋越峠を越えてくる「例のブツ」を、遅い桜の咲く公民館の駐車場に待っていると、そこへ見慣れぬ軽トラが入ってくる。誰のだろう? と見ていると、梅田さんが不敵な笑みを浮かべて降りてきたではありませんか。

 こうなるとマジで業者感が半端ない。今日という日のために、トラックはお知り合いから借りたのだそうで、準備は万端。この人は本気で百袋近い土を買おうとしているのだということが、ビリビリ感じられたものです。

 そこへ山形から峠を越えて「たけだ」のおじさんとおばさんが到着。

 「いやぁ、少し遅くなってしまって、」のイントネーションに、久しく足を運んでいない山形の空気が感じられました。何でも「家の鍵かけたか忘れちゃって、一回戻ったの」だそうで。

 お二人とも実にお元気。全国共通のお出かけあるあるに和んだのも束の間、ハイエースに満載された盆栽用土を、挨拶もそこそこ降ろしにかかります。

 というか、そのほとんどは梅田さんのトラックに積み込むわけであるから、会員も総出で用土リレーをしているうちに、荷台は用土の袋で埋め尽くされていきました。

 何てダイナミックな通販でありましょうか。積載される土の袋を眺める梅田さんのまなざしは、まさにその重量のごとく、どっしりとすわっていらっしゃる。

 「たけだ」さんご夫婦を見送って、我々も各々の車に待望の資材を積み込んで、さて解散という段になり、ふと気になって梅田さんのトラックに目をやると、その景色はさながら盆栽愛好家にとっての宝船。

 ゆらりと発進したトラックは、どんぶらこと鷹揚なひと揺れをしてから、五百鉢の欅が待つお宅へ向けて漕ぎ出していったのでした。


 梅田さんの退会が伝えられたのは、それから程なくのことでありました。公民館のリニューアルに伴って、建物が立派になったのはよかったのですが、駐車場から距離があったり、研修室が二階になったことで、通ってくるハードルが高くなった、とのことでした。

 「何とか身体の続く限りは」と、会のために長年尽くしてくださった梅田さん。今日もあの欅たちに囲まれて、悠々と盆栽ライフを愉しんでおられるだろうことを願ってやみません。