ゼッタイわざとやっておるだろう、と採点しながら笑ってしまう。
「ジャンプ」と書くところが二つ宿題に出ていて、それぞれ「ジャンポ」「ジャンパ」だそうで、一度ならず二度までもの波状攻撃をされると、ついと採点机の上で吹いてしまう。これが年末ならば、どこからともなくやってきた男に尻をぶっ叩かれるというものである。
そんな私の様子を知ってか知らずか、当の本人はニヤニヤ愉しそうに今日もカタカナを練習している。ちょいとばかし舌っ足らずなあどけなさで熱心に文章を読んで「ぼキュがキャラメルをたべまチュ」と来るから、他のスタッフの先生方も端で聞きながら目を細めている。
でも「キャラメル」はちゃんと読んだにも拘わらず自信たっぷりで大書したのは「ギャラメル」。何だかジャリジャリして舌触りも悪そうで、実においしくなさそうである。
この「ギャラメル」は後ほど、もちろんチェックがついて彼の許へ帰ってくるのであるが、そこからが彼の真骨頂といってよい。
ロクにプリントも見ないで「何がまちがってるのー?」なんていうのが、おおよその幼児というものであるが、彼は実に愉快そうに返ってきたプリントを眺めている。
「あでぇ? なにか、まちがっているゾ。」としげしげプリントを眺めた後「あ、なんか、ここ『ギャラメル』になっているゾぉ」と見事に訂正箇所に気づいたとたん、自分の珍回答におかしくなったと見えてくつくつと笑い出すではないか。
私はそんな彼の様子を見て、とても素敵だなぁと思うのである。だって彼は、自分の答えがヘンであることに気づくと同時に、その自分の解答について笑える余裕があるのだ。
これを真顔で「?」を連発しながら訂正された日には、非常に心配になるのだが、こうやって笑えていれば大丈夫。まぁ、もっとも「ギャラメル」も彼の自作自演の可能性もあるけれど、今のところ彼の学習は順風満帆で進んでいる。
ちなみに彼は「ギャラメル」よりは「グミ」が好きなそうである。