学校から帰ってきて、茶の間のテーブルに陣取る。おやつを食べて、さて公文をはじめようかしらとなるのが、だいたい四時半かそこら。
平日の夕方四時~五時台と言えば、NHKの子供向け番組のゴールデンタイム。六つ年下の弟がおじいさんとおばあさんの相撲観戦を中止させて問答無用で教育テレビをつけると、耳慣れたお馴染み様の番組が聞こえてくるわけで…。
『いないいないばぁ』だとか『おかあさんといっしょ』くらいならば、兄のプライドもありますから素知らぬ顔して公文を解き続けられるのですが、それらも終わって日暮れてくると少々やっかいなことになってくるのです。
読者諸氏は『ハッチポッチステーション』なる番組を覚えておいででしょうか。グッチ裕三さんと「ジャーニー」こと林家こぶ平(現、正蔵)さんの軽快な掛け合いと、グッチさん風にアレンジが加えられた洋楽のヒットナンバーがとにかく際立っていたこの番組。
まさに将を射んとすれば何とやら。後に聞いたところでは、育児中のお母さんのハートを射止めることに照準を中てていたとかで、そんなオトナ向けのネタと洒落に替え歌は、それを理解半分で聞いている子供心には寧ろ変にゆかしくて、いつまでもひっかかって残るのです。
こちとら分数の計算をさっさと済ましてしまいたいのに、「YMCA」ならぬ「ワー、毛虫だ」のフレーズが耳の奥でいつまでも鳴っていて、それを放送後も弟が端でうろ覚えを歌っているものだからさあ大変です。
一向に計算が進まなくて、結局『おじゃる丸』を観て『忍たま乱太郎』からの『天才テレビくん』まで公文がもつれ込み、自分のゲームの時間がじり貧になっていく憂き目を幾度見たことでしょう。
だから『ハッチポッチ』までは何としてでも目処をつけて置かなければならないのです。あの悪魔的に面白おかしい番組がはじまってしまう前に、今日のお勉強に必死こいて取り組む。昔のよしみで「わくわくさん」と「ゴロリ」にも誘惑されがちであるけれど、とにかくさっさと所定の枚数をこなす。
思えば、そもそもお茶の間でやるからだ、という話でもありますが、それが自分で決めた学習ルールの元祖だったような気もします。
今となっては、晩の酒の肴に『ユーチューブ』なるものをテレビに映して、在りし日の珠玉のネタの数々がオトナになった自分に与える影響を夜な夜な検証しておる次第です。
公文で仕事をして『ハッチポッチ』を観て。これじゃあ、まるであの頃と変わんねぇじゃねぇか、と苦笑しつつも、イイ年こいたオトナが「ワー、毛虫だ」に腹を抱えている今日この頃です。