かたつむり学舎のぶろぐ

本業か趣味か、いづれもござれ。教育、盆栽、文学、時々「私塾かたつむり学舎」のご紹介。

些事放談「とある標本調査」

 池に三八一匹の鯉がいたとします。

 時にヘンな伝染病が広まって、この池の鯉たちにも感染が広がったとします。

 感染した鯉には不鮮明な斑が現れて、命には別状がないというのだけれど、それがなんとも見苦しいそうで、飼い主としては、さっさと感染した鯉を除いてしまいたい。

 されど、感染した鯉に自ら名乗り出てもらうわけにも行かなければ、全部の鯉を水からあげて一つ一つ点検するわけにも行かない。

 困っていたところに、お役所の人がやって来て謎の伝染病の感染状況を調査させてくれろ、と言うので渡りに船。人間の感染症については鈍感で、とかく行動が遅いくせに、鯉となるとヤケに対応が早い。

 とりあえず自分の池の何割方の鯉がやられてしまったのかを調べてもらった上で、役所と相談しながら対策を講じることになりました。

 お役人さんが説明することには、全数調査は時間と費用がかかってしまうので、ここは「標本調査」で行きましょう、とのこと。

 まず一六匹の鯉を無作為に捕まえ、しかる後に例の斑の有無を調べる。その結果から全部の鯉のうちのおよそ何匹が感染しているかを計算する。非常にシンプルな考え方でありますが実に合理的。今では中学数学の必修となっている単元でもあります。

 早速一六匹の鯉を捕まえて調べてみたら、なんとそのうちの八匹に例の見苦しい斑が確認されました。予想外の結果に、いま一度同様の試行を実施したのですが、今度は一六匹中の六匹が感染していたそうな。

 さて問題です。この池の三八一匹の鯉のうち、いったい何匹が感染しているでしょうか?

 これは飽くまで架空の設定であります。何ですと? どこかで既視感があるですって? となるとそれは、悪い夢より他の何ものでもありませんね。