軍隊学校之記(14) 迷子な青春
教室で喫茶の習慣をはじめたのは、受験も近くなった三年生の頃でしたでしょうか。
勉強道具より他にさしたる用具もないので、そのまま打ち遣られていたロッカーに、お湯の入った水筒と粉末タイプのミルクティーを持ち込んだのがはじまりでありました。
それが少しずつエスカレートして、法事でもらったインスタント珈琲にシュガー、続いてティーカップにソーサーが登場し、それを安置するための簡易棚が設えられたのは最早自然のながれでした。
私が唯一自慢すべきは、この習慣が「放課後ティータイム」より先んじていたこと。なにせ私が愛用していたノリタケのカップとソーサーは机にすっぽりと収納できたので、英単語や例文を諳んじながら教官の登場間際までティータイムを楽しむことが可能だったのです。
それにしても、なにゆえこんなヘンテコな習慣がはじまったのやら、当時の私に聞いてみなければ真意は分かりませんけれど、今となって思うにそれは、アウェーな土地に自らのパーソナルスペースをつくる営みだったのかも知れません。
文理にブンリしても教室のメンツはほとんどそのまま。和気藹々とやっているように見えて、周りは全員がライバルであり、センター試験の土俵に立てば多かれ少なかれ、同じ大学の同じ学部の席をめぐって蹴落とし合う間柄。
「気がおけない」どころじゃなくて「気しかおかない」緊張関係の中で、刎頸の交わりなんて期待できるものではありません。言うなればそれは同じ予備校に通っている人々なわけで、それぞれが孤独な暗闘状態にあったのだと思います。
だから(?)私は未だに普通の高校生活というものが、いまいちイメージしにくくあります。でもそれは、実に明るくて友達同士で焼きそばパンを争うたり、赤点回避のスリルを共有したり、そう、そして恋愛をしたり・・・随分と幻想の靄と補正がかかって見えるわけです。
どうぞ笑はば笑へかし。「青春時代が夢なんて、あとからしみじみ思うもの」。ああ、それは私だけでなくて、あの空間に共存した全員が「道に迷って」いたのではなかったかしら。
あそこにいた誰もがもがき苦しんで、それこそそれぞれに私の「ティータイム」に相当する営みをしていたかも知れません。でもそんなことは、知るよしもなかったし、寧ろ知るヨユーなんてものすらなかったと言うべきでありましょう。