みなさんは『くまさぶろう』という絵本をご存知でしょうか?
名前のインパクトもさることながら、お話もくまさぶろうのビジュアルも、一度読んだら忘れられない一冊となることは間違いないでしょう。
では「くまさぶろう」とは一体、何者なのか?
くまさぶろうは「せかいじゅうに ひとりきりいないくらいの、すばらしい どろぼうのめいじん」であります。お話を通して彼は、その肩書きに相応しい、まさに神業を駆使してあらゆるものを盗み続けます。
でも、この「どろぼう」、既に私たちが知っている鼠小僧や白波五人男、アルセーヌ・ルパンや怪人二十面相ともだいぶ毛色が違っているのです。それは、クラリス嬢の心を盗んだと言われるルパン三世に先駆けて、バンバン「ひとのこころ」を盗み取る、前代未聞の「どろぼう」と呼ぶほかありません。
お話を通して、ひたすら盗み続けるくまさぶろう。きっとはじめて読まれた方は、驚かれるに違いありません。そこには彼が盗みをする動機や目的も、彼の実態や内実すらほとんど語られていないのです。
それでも読む人をして妙に納得させてしまうのが、「くまさぶろう」という不思議なテクストの魔力。そしてそこに、何とかして読んでやろう、という気分を触発せしむるのも良質なるテクストの魅力というもの。
不定期な連載とはなりますが、あたう限りテクストの醍醐味を損なうことなく、読者のみなさまと共に「くまさぶろう」を読んで参りたいと思います。
本文の引用は、もり ひさし/ユノセイイチ著『改訂新版 くまさぶろう』(こぐま社)に拠り、引用箇所は「」で表記致します。