近隣の盆栽会の顔なじみが尋ねてきてくれるのも、展示会をやる愉しみのひとつであります。
朋ありて隣町より来る。リポビタンや缶コーヒー、エンゼルパイの差し入れを引っ提げて、陣中見舞いに来てくれます。
このごろのコロナ流行りのせいで、久しく行き来が絶えていた人がひょっこり顔を出すと、「やぁやぁ、どうもどうも」とはじまる。話のタネはそれこそ展示の数だけあるのだから、そいつをお茶請けにナンボでも喋っていられます。
だけど、あんまり愛好家の内輪で盛り上っても、肝心の盆栽バージンであるお客さんを萎縮させてしまうというもの。ここのところは、よっぽど注意しなければなりません。
あれは私がまだ盆栽をはじめて間もない頃、立ち寄ったとある展示会で、おじさま方がメチャメチャ内輪で盛り上がっているところに遭遇してしまったことがありました。その声がわんわん会場に反響するものだから、とうてい展示された作品に集中することなんか出来ません。別に自分の事を言われているわけでもないのに、何だか妙に肩身の狭い思いをしたことを覚えています。
今でこそ愛好家のこぼれ話に耳を傾けて耳寄りな情報をキャッチしよう、なんて欲も出ては来ましたけれど、出来ることなら心静かに作品に向き合いたいものです。
そこんところを心得ているのが粋な盆栽人というもので、それまで「ほほほ」「なるほど、そうですか」「私だったら用土は・・・」と談笑していても、展示室の向こうの方で私に「あのぉ、この樹って、何ですか?」とお客さんからお呼びがかかれば、自身はスッと身をひいて「んじゃあ、また」と静かに去って行く。
こんな盆栽人って粋だなぁ、と私は常々思うのです。そしてやはり粋な盆栽人の樹も、えてして粋なものです。うーん、私のはまだまだそんな水準じゃないし、知り合いの展示会でお茶なんか出されると、ついついおかわりを注がれてエンゼルパイとハッピーターンを食ってしまう・・・。
こりゃあ、まだまだ野暮ってもんですぜ。