検定試験にやってくる子供の顔を見るのが好きだ。
送ってきてもらった車を直立不動で見送って、試験会場となる公文の教室に、ロボットみたいな動きで入ってくる。
それが普段通っている教室ならまだマシなのだろうけれど、持ち回りで余所の教室ともなると、ひたすらにアウェーであるようだ。
「こんなところにいつもの先生たちがいるわけもないし、い、いったいどんなことをされちゃうのであろうか。」と顔に書いてあるけれど、ご心配めさるな、君たちが申し込んだ検定試験をやるのである。
この会場の主である母の指示を聞きながら、勝手の違う下駄箱へ靴を入れる。ふだんならばコンマ数秒で教室へ上がり込むところが、記録的な慎重さである。そして神妙な面持ちで消毒液をすり込む姿などは、もはや拝んでいるみたいで、遠くから観察しているとクツクツ笑けてくる。
さて、いつ私と妻の存在に気がつくだろうか、とニヤニヤしていると、ようやっと気がついた。
「アっ! せ、先生オハヨウ!」
私たちとの遭遇があんまり意外だったらしく、とっさのリアクションの第一声が掠れてハスキーボイスになってしまっている。
というか、お前さん今までそんな可愛らしい挨拶を私にしたことがあったかしら、というところからしても実にツッコミどころ満載で、映画版ジャイアンを彷彿とさせるイイ子ぶりに、むしろこっちが面食らってしまう。
可愛い子には旅をさせろ。せっかくのアウェーをアウェーのまま体験させてやるのもよいのだろうが、まずもって人手が足りない。そして何より普段と違う場所で出会う教え子達の姿がゆかしくて、ついつい目尻を下げてしまう私がある。
katatumurinoblog.hatenablog.com