かたつむり学舎のぶろぐ

本業か趣味か、いづれもござれ。教育、盆栽、文学、時々「私塾かたつむり学舎」のご紹介。

盆人漫録(18) 緑のチューブのあれ

 それは、今回もまたはじめて同好会一同の前にデカデカと姿を現した、沼田さん所蔵の五葉松でした。

 何なの? 沼田さん家はいったいどうなっているのだろう? と誰もが首を傾げる中「おっこいしょっと!」という気合いとともに十二、三号はある鉢を持ち上げる御年八〇才。

 慌てて救援に向かい、一緒に作業台へ載せますがよくぞこれを一人ワゴン車に積んで、ここまで運び込んだものだと舌を巻くレベルです。

 「いやぁ、こいづ、重でぇがらっしゃぁ。気合いかけて載せで来たんだおん。今日、先生来んだっちゃ? ほんだら、ちょっとやってもらうべと思って持ってきたんだ。」

 と言うけれど、今回の一鉢もなかなかな暴れっぷり。元気な徒長枝が爆発していて、かつて樹冠部だったと思われる部分がデーモン小暮閣下的な頭へと宗旨替えをしている模様。

 そして何より目をひくのは、鉢の周囲をぐるり等間隔に挿し込まれた十数本の「植物活性剤」であります。よく観葉植物などに用いられる例の緑のチューブは、お母さんの園芸と沼田さんの盆栽の代名詞です。

 「これがイイんだなぁ」と沼田さん。もちろん固形肥料もあげるけれど、とりあえずこれを挿しておいて樹が弱るということもないから、続けているのだそうです。

 沼田さんの道具箱には、まだ未開封のチューブがびっしりストックされており、先生の到着を待つ間も、既に空になったチューブの交換に余念がありません。本人曰く、これがあると、ちょっとした水切れでも耐えられるとのこと。

 ベテラン愛好家の経験則は、時に一般的な定石を覆すものです。かつて講師の平先生が雑誌の記事で紹介された100倍のハイポネックスに驚いて問い合わせをしたように、もしかすると沼田さんの「植物活性剤」も愛好家の常識を覆す発見なのかも知れませんが、こればかりはいまだに私も試せずにいるわけで・・・。

 そんなこんなで盛り上がっているうちに定刻の十時。会ははじまったものの、先生はいまだ来ず。仕方が無いからみんなであれこれ、沼田さんの五葉について検討をはじめたところ、私の視野の隅っこを「また」黒い影がちょろりと過ったのでした。