盆・歳時記 樹形篇(三)
○根上がり
「え? 掘るンすか? オレの足元を? 何で? バカなんすか? そこは幹じゃないっすよ。根っこっすよ?」
という樹の声が聞こえて来そうである。愛好家のヘンな愛情によって掘じくり返された根は、空気に触れて硬くなる。
「そりゃ、そうっすよ。あんなとこ掘られた日にはグラグラしちゃって、リアルに『立ちゆかない』っすよ。え? まさか、また掘るんすか? あんたもマジ懲りないっすね? でも、せっかくやんなら、もうちょい色気が出るようにやってくださいヨ?」
○根連なり
それは深い森に横たわる老樹に宿った、新たな生命の兆しであろうか。
朽ちて倒れた樹は、死してなお森の貴重なる一部なのだ。くずおれた幹からすっくと立ち上がった若木たちの、やわらかな緑が伸び上がる。
そんな感じを出したいなぁ、と思ってつくるのだけど、それがなかなか難しい。よし、ここはひとつ酒の力をお借りして、鉢の中の深い(?)森に分け入ってみることにしようではないか。
○株立ち
我らみんなで一つの樹。それが多幹樹形。
それでもよく観て樹勢のバランスを取ってやらないと、すぐに内ゲバがはじまって枝枯れを起こす。樹木の生存戦略は、弱い枝に容赦をしないのだ。
なかなか油断ならない樹形であるが、そんなタカンな彼らを教え導き、上手く付き合うことが出来たら愛好家として、いや教育者としてけっこう自信をもってよいのじゃないかしら。
「えー、木という字は、枝と枝がこう、一本の幹を支え合って・・・」