かたつむり学舎のぶろぐ

本業か趣味か、いづれもござれ。教育、盆栽、文学、時々「私塾かたつむり学舎」のご紹介。

盆人漫録(19) コンクリート事件

 沼田さんが教室に持ち込んだ初見の五葉松。寝起きみたいな頭で、ところどころ枝がトンでいるものの、どうして葉性も古さも悪くありません。

 講師の平先生が来たら手をかけてもらうのだ、といつもの他力本願っぷりを発揮していますが、そこに連絡が入って本日先生はお休みとの由。

 でも先ほどからその鉢の上を、やっぱり黒いものが這っている。幹の中程にある洞から「よし、いまだ!」とばかり、一匹、また一匹とみるみるうちに湧き出してくる影、影、影。

 「いつか」のデジャブのような気がしないでもない黒い軍団との邂逅。あれは図書館の床を埋め尽くした蟻の大群。それがまたこの公民館の一室で繰り広げられようとしているのだけれど、はて、少しく精神的なゆとりがあるのはなぜかしらん。

 思うに、あの時みたいな危機感がないのは、この公民館が醸し出す古き良き時代のフンイキによるものなのでしょう(?)。

 新しい図書館のピカピカのフローリングの上を蟻が這っていたら明らかにヘンだけれど、古き良きタイルには蟻の数匹がよく似合う気がしないでもない・・・。しかし、事はやっぱりそんなに甘いものではなかったのです。

 試みに蟻が出てくる幹の洞をほじくってみたところ、ピンセットがずぶずぶ奥へ奥へと入っていく。ぼろぼろと朽ちた木っ端が出てきて、住処を逐われた蟻のご一行様がぞろぞろ出てくる光景に、一同色めき立って蟻を叩きはじめたのでありました。

 「この穴っこ、このままだともっと腐っから、コンクリ詰めなくてねぇよ?」と会長さん。「ほおぉ、へえぇ! コンクリね!」と沼田さん。

 確かにこうした洞にコンクリートを詰めて云々というのは、私も雑誌で読んだことがありましたので、小品専門でコンクリに縁のない私も、なるほどなぁと聞いていた次第なのでした。

 さはれ翌月、再び同好会に現れた沼田さんの五葉松を見て一同びっくり。そこまでやるか、と言わんばかりにコンクリートがぎっしり。前回に比べてとんでもなく重たくなってるし、かつて洞だった部分がこんもりと盛り上がっていたのです。

 そこへ登場した先生、コンクリート五葉を見てひと言。

 「え? 何これ? こいづ、なんで詰めたのっしゃ?」

 これが世に言う、コンクリート事件であります。程経ずして会長さんが突然会を辞したのには、この事件があったのではなかったか、とまことしやかにささやかれたとか。
 
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