かたつむり学舎のぶろぐ

本業か趣味か、いづれもござれ。教育、盆栽、文学、時々「私塾かたつむり学舎」のご紹介。

子宝日記(1) 序

 もう少し早く書き出す予定が、六ヶ月も経過した今になってようやく出発する体たらくである。

 暗い池に浮かんだ泡のような写真を見せられて、これがお前さんの子だ、なんて言われても実感が湧かない。抽象的で、あまりに抽象的で、私はその写真をぐるぐる回してみたものだったが、やはりそれはどう頑張っても泡にしか見えなんだのである。

 寧ろ実家の両親や祖母であったり、恩師や近しい友人の反応を見ることで、なるほど私も父になるのだなぁ、というどこか他人ごとみたいな感慨を新たにすることの方が多かったと言えよう。

 されど夏が過ぎ秋も深まろうとする今になって、妻の腹はみるみる膨れてきた。そうなってくるとにわかに生々しい実感が湧いてくる。私の娘か息子がこの膨れた腹の中に蹲って、寝たり起きたりして暮らしている。

 老子は母堂の腹のうちに八十年の春秋を送ったと聞くが、それはそれは居心地のよいものであったとか。我が子もそんなところにあって、あくびをしてみたり、ぽんぽんと皮袋を蹴立てて遊んでいるのかしらん。

 一つに我が子に遺さんがため、一つに私の状況認識のため、そして一つにその境遇を同じうする方のため、題を「子宝日記」と称してぽつり、ぽつりと書き継いでゆく次第であります。