かたつむり学舎のぶろぐ

本業か趣味か、いづれもござれ。教育、盆栽、文学、時々「私塾かたつむり学舎」のご紹介。

蝸牛随筆(3) レジの職人芸

 そのスーパーに買い物に行くと、必ず選ぶレジがある。

 どんなに人が並んでいようと、前の客のカゴが溢れんばかりになっていようと、喜んでそこに並んでしまうレジがある。

 そのレジを打っているのは、ササキさんという方で、その手際たるや単に「早い」というだけでは不十分この上ない。言うなれば「職人芸」。私はそれが見たさに、このレジに並ぶ、いや、わざわざこのスーパーで買い物をしているかの感がある。

 私があっちこっちと陳列棚をほっつき歩いて、ホイホイ勝手次第に積み上げたカゴの内は、我ながら実に情け無い散らかりよう。まさに陳列したスーパー側の術中に嵌まりまくって、これもこれもとカゴへ放り込むものだから、これ以上イイ客はおらぬというもの。

 さて、レジのササキさんは、最初にこのカゴを一瞥。おそらく入れていく段取りを考えておられるのだろうが、次の瞬間にはずり落ちそうにしてあるピザを救出し、カゴに入りきらなかった徳用じゃがいもの袋を移動させ、奥底に沈んだビールの六缶ケースをサルベージしておられる。

 もはや設計図が頭にあるとしか思われぬ、完璧な寸法でもってピタリ、ピタリとヨーグルトが、惣菜が、小分けにビニールをかけてくれた肉類のタッパーがマイ・カゴに収められていく様を眺めているのは、実に心地がよいものである。

 いつぞやは手首にテーピングをしておられたこともあって、これはきっと私のようなファンがこぞって並ぶものだから、余計に処理せねばならぬ仕事が増えたことによる弊害ではないかしらと心配したけれど、やはりこの店に来たら、この人の仕事を見て帰りたいと思うのである。

 「レジ打ち」など高校生のバイトでも出来る、なんて不調法なことを言うなかれ。刀鍛冶でもレジ打ちでも、一流の仕事には美しさが伴うのだ。いつの世も「量」より「質」が評価されてほしいものである。

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