かたつむり学舎のぶろぐ

本業か趣味か、いづれもござれ。教育、盆栽、文学、時々「私塾かたつむり学舎」のご紹介。

盆人漫録(21) 語り合い・秋

 あんなにいつも、自分の戦車模型を錆びさせたり、わざわざ「古さ」を出そうなんてしているクセに、こんな時に限って舎利のウェザリングを失念するとは、私もまだまだ甘ちゃんであります。

 そんなこんな、三日間の展示でお客さんは百数十人。終わりかけた日曜日、片付けの装備を万端にして会場へ足を運んだところ、最年少の綱田くんが熱心にご婦人の接客をしているではありませんか。

 「おっ、やってるナ」と思いつつ、会場の隅っこの方で差し入れのハッピーターンとお茶を消費していたのですが、どうしたことか、まだ話している。つうか、ずっと話している。

 そういえばこの二人、展示から随分離れたところで語り合っているところからすると、「この樹の白いのは何だ」とか、個々の樹についての質問を受けているのではないらしい。時折、うんうんと深くうなずきながら理解を示しているらしいが、いったい、何の話をしているのかしらん。

 いずれにせよ、そろそろ展示終了の刻限であるし、吉原さんが「片付けの段取りをするからちょっと」とナイスな助け船を出す。すると「じゃあ、また」ってんで、実にあっさりとご婦人がお帰りになる。

 「え? 込み入った話じゃなかったの?」と本人に尋ねると、綱田くん苦笑しつつ「うーん、まぁ。」「じゃあ、何の話だったの?」「何というか、人生っていうか、人生の話でした。」「はあ、左様ですか。」と二人してニヤリ。

 別に、展示に来たからといって、盆栽の話しかしていけないルールなどないのです。ご婦人もきっと色づいた盆樹たちを見て、ふと「人生」について語りたくなったのかも知れません。

 それはそれで素敵なことであるし、この展示会が、見に来てくれたお客さん達の心を何かしら動かすにいたったということの証左でもあるのです。

 まぁ、それにしても綱田くん、どうもお疲れ様。