子宝日記(3) カラー写真
出てきてからのお楽しみ、というのは最早古い常識なのかも知れない。
それが息子なのか、娘なのか。はたまたどんな顔をしているのか、期待と不安を二つながらに抱えて分娩を待つものなのだろう、なんて思っていたら検診から戻った妻が「カラー写真」を持っている。
腹が大きくなってきた記念に撮って貰ったのかしら、最近の産科は随分とサービスがよいものだと感心していると、何とそれは腹の中の写真であると言う。近頃は白黒の映像に色を付けて見せる技術が浸透してきたけれど、これもその類いなのかしらん。
よく見ると、六ヶ月弱にして既に人間らしい目鼻がついていて、デンと投げ出した足の先に小豆みたいな五指が並んでいる。その足の間から伸びているのがへその緒で、これが手で・・・とやっていると、何だか自分が先々の楽しみをすっかり先取りしてしまっているような気さへしてくる。
頭が丁度輪切りにされているのは、アングルの塩梅からそうなっているのだそうで「決して頭がちょん切れているのではないので悪しからず」とのこと。これはきっと、潜水艦のソナーみたいな技術なのだろうが、とするとこの輪切りにされた頭の中にぽつりと見えている浮島が、わが子の脳髄ということになろうか。
嗚呼、この柔らかそうな脳髄に、如何に素敵なことが、ニガイ思い出が、恋の迷妄の痕跡が刻まれることだろう。というか、我が子に対面する前に我が子の脳髄を見せられるというのも、やはりヘンな感じである。
「カラー写真」も善し悪しである。さはれ、自分の子が健やかに育っているらしいことを実感できるのは、喜ばしき限りである。