かたつむり学舎のぶろぐ

本業か趣味か、いづれもござれ。教育、盆栽、文学、時々「私塾かたつむり学舎」のご紹介。

定点観測(49) ザ・マンザイ

 何を尋ねてもあさっての答えしか返ってこなかった子供が、ある日突然、当方の何の気なしのひと言を鮮やかに返してきたら、これはいよいよユダンならなくなってくる。

 「プリントに『冬のおとずれ』とあるが、きみはそもそも『おとずれ』という言葉を知っておるのか?」「え? そんなの、ぜんっぜんわかんないよ。」「わかんないのに、お前さんプリントを解き進めておるじゃないか。」

 意味不明なワードをスルーしたところを御用にするのはいつものことであるが、さて何と「おとずれ」を説明したものか。「来る」という言葉で間に合わせてもいいのだが、それでは何だか味気ない。

 そういえばこの少年、国語はこんな感じであるけれど、なぜか英語の進度がはかばかしいわけだから、ここはひとつ「visit」と教えた方が、記憶に引っかかりやすかったりするのではないかしら。

 早速私が「ビズイット」とジャパニーズ発音をしてやると、くりんくりんのお目々がキラリと光る。こいつはしめたと喜んだが束の間、とんでもない返しが私を襲う。

 「じゃあさ、冬は『忙しい』ってこと?」「え? と申しますと?」「だからさ、『busy』なんでしょ?」「違うわい『visit』だっつうの! ほら、例えば『I visit in Hong Kong.』などと使うだろう?」

 「それって、コレのこと?」言うが早いか、少年の小さい拳が机を軽快にノックする。コンコンと乾いた好い音がして、確信犯的な笑みを浮かべた少年が、「今だぜ」という顔をして私のツッコミを待っている。

 「そりゃコンコンだ、コンコンじゃなくてホンコンだ」「ああ、ホンコンか。」「そう、ホンコン。」「で、何の話だっけ。」「やめさしてもらうわ。」
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