自らの心のうちに移りゆくよしなしごとを、言葉という形にして、へらへらと喋ることができるようになると、子供だって談笑をはじめる。
学校は違えど教室では、はな垂れ小僧の時分から既に三年、四年の付き合い。横を通る度にチラリ、互いのプリントとその進度を確認しては、素知らぬ顔しながらバチバチ意識し合っている間柄。
普段はそんなに話をする余裕もなく、すれ違いに終わることがほとんどなのであるが、奇遇にも今日はそんな少年が三人、学習を終えて待合の椅子にちょこなんと腰掛けて談笑をしている。
「それ、ぼくより進んでるなぁ。だけど、国語はぼくの方がちょっと進んでるよ。」「おれなんか、次は分数の割り算やるんだってさ!」「ぼくはさぁ、ぼくはさぁ。」
椅子に深く腰掛けた足をぶらぶらさせながら、いつもは出来ない公文トークに花を咲かせる同士三人。と、そこへ一陣の冷たい風が入ってくる。
「うわっ、さむっ!」「え? なんで風入ってくるの?」「ここがあいている。」「ホントだ! なんで開いてんだ。」
少年よ、それは換気のためにほかならない。だけど彼らの反応が面白いから、あえて野暮な干渉はせずに遠目に眺める私。
「誰かが開けたんだよ!」「開けたままにしちゃったのかなぁ?」「きっと、そうだ。」「こんなんじゃ、風邪引いちゃうよ!」「よし、じゃあ、閉めよう!」
バチーン、と勢いよくサッシが閉まる。これで一安心、「あたたかくしてやったぜ」とでも言いたげな、してやったり顔の三人である。
平時より「自分で考えてなんとかせよ。」と誰かさんの教えをうけている少年達である。三人寄れば何とやら。彼らなりの考察の結果、それを実行に移したのは結構ポイントが高い。そして私はにやにやしながら、そっと別の窓を開けに行くのであった。