冬の風が吹く曇り日の公園には、ボールを投げる子供の姿もなく、犬を連れた人々の姿もない。
暖かな教室の内から往来を眺めやると、着ぶくれをした子供達がちらほらと帰ってくる様子が見える。ここは見晴らしがよいから、少し遠くの方を歩いていたって、「ああ、誰それが帰ってきた」と生徒の到着が見えるという寸法である。
ファミマの駐車場を抜けて、こちらへとぼとぼ歩いてくる赤いランドセルのあの子。あれなるは確かにうちの生徒である。何か考えごとでもしているのであろうか、少しくうつむき加減にして歩いていたけれど、公園の入り口まで来てはたと足が留まった。
どうしたのかしらん、そのまま公園を通ってここまで来るのだろうが、物思いに沈む横顔がそのまま公園を横切っていく。何かこの冬日の公園に用でもあるのだろうか。何か所用を思い出したのであろうか。
その足取りの向かう先には、小さな東屋があって、そこには小さなテーブルと椅子が設えてある。そこへ手に提げていた荷物を置き、背負っていたランドセルをゆっくり降ろすと、その中から徐に筆箱を取り出して何かの紙面を広げた様子。
学校の宿題だろうか。教室で公文の学習をはじめる前に片付けてしまおうとでも思ったのだろうか。しかし、なぜ。こんな冬枯れのした公園であの子は物を書いているのだろうか。
その沈鬱そうな面持ちは、あの東屋をどこか西洋庭園の一隅に移し替えたかのような風情を醸している。誰や思い人のあるやらん。
さはれここは東北、寒風吹きすさぶ平野部の真っ只中である。東屋にはそれを遮る壁のあるはずもなく、あすこでおめおめ風邪を引かせるわけにもいかないから、早速こちらからお呼び立てに出かけていく羽目になる。
暖かな室内で尋ねたところ、少しく頬を赤らめて伏し目がちに微笑を湛えながらひと言。
「・・・終わらなかった公文の宿題をやっていました。」