かたつむり学舎のぶろぐ

本業か趣味か、いづれもござれ。教育、盆栽、文学、時々「私塾かたつむり学舎」のご紹介。

蝸牛随筆(16) チャイルドシート綺譚Ⅵ

 やって来た店員に尋ねると、これは「型落ち品」とのこと。

 つまりは最新モデルが出たことによって、商戦における第一線から退役を余儀なくされた商品であり、驚くべきことに機能的な面では最新モデルとおよそ変わるところがない、と言うのである。何ならこちらの生地の方が、ふんわりとして肌触りが心地よくもあるし、同一機能な上に「二〇%オフ」ということは、最早好いところしか残って居らぬではないか。

 それは目覚ましい発見であった。最新式を買うことに並々ならぬ抵抗と「負けた感じ」を禁じえなんだ私にとって、「型落ち品」とは天助に相違なかったのである。これならば折れかけていたわが自尊心にも何とか面子が立つし、最新モデルによって消費者を惑乱せしむる資本主義的悪弊に対しても、いっぱしの抵抗を示したことになるのではないか。

 マシマシの機能は「我が子のために」喜んで頂戴するが、私は「最新モデル」は欲しくない。よし、これである。先ほどから店員が「残り一点しかないです!」とわが決断を煽ってくるのは少々いただけないものの、私の腹は既にして決まっている。満を持して「これをいただきます。」と伝えるや、在庫確保に店員が真一文字に倉庫へ飛んでいく。

 「ありました! 大丈夫でした。」との報せにひとまず安心したものの、次の店員の台詞に私は肝を冷やしたのである。

 「お車はISOFIXご対応の車種ですよね?」私はすっかり失念していたのである。「ISO」某とはそもそも、取り付けやすさに対して付けられるお墨付きくらいに考えていた私は、自分の調べ学習の甘さを呪わずには居られなかった。店員の話によれば、今時の車はだいたい全て「ISOFIX」対応車であるからして、「まさか、そんな古い骨董品みたいなお車には乗ってないよね?」的なノリなのである。

 「あはは、ええ、まぁ。ねェ。」と相槌うちうち対応車種表をめくる私は変な汗を掻いている。なにせ『平成一四年製』という項目自体、その小冊子には記載がされていないのであり、ということは購入を決定した「ISOFIX専用」と記載されたチャイルドシートの搭載が適わぬということであるらしい。

 かくして私は、「我が子のために」次は車を買わねばならぬことになったのである。まことに希有なことになった。