かたつむり学舎のぶろぐ

本業か趣味か、いづれもござれ。教育、盆栽、文学、時々「私塾かたつむり学舎」のご紹介。

蝸牛随筆(21) 公園のストーン 前編

 公園の真ん中にストーンがひとつ。

 「石ころ」と呼ぶにはあんまり大きくて、春の光を浴びはじめた芝生の只中にぽつねんと鎮座ましましている存在感たるや「ストーン」と呼ぶより他にない。

 日が傾いて下校の鐘が鳴るころ、ストーンのまわりに子供達が集まってきた。やはり彼らにとってそれは看過できない代物なのであろう。ためつすがめつ眺めて後は、誰彼ともなくそいつを蹴ってみる。ゴロリ、と鈍く転がるストーン。

 世が世ならこの路傍のストーンは漬物石として重宝されたことであろうが、公園の真ん中において彼は全くのエトランゼである。よって子供達にとって格好の玩具である。

 ついにそのうちの一人が、ストーンを抱きかかえると、一同から「アッ!」と歓声があがる。赤い顔をした彼は得意げにストーンを抱いて、それをヨシヨシとあやす真似をしてみせる。きっと彼には下に弟か妹があるのだろう。

 一方、周りの子供達はそろそろ彼の「ヨシヨシごっこ」にも飽きてきたらしく「走れないのか」とか「投げてみろよ」とか、新しい刺激を挑発してやまない様子である。流石にストーンを放り投げ始めたら、一応その場に居合わせた大人として自分が止めに行かねばならぬだろうが、ここで彼らからストーンを早々に取りあげてしまうのは早計であるし、野暮というものである。

 すると今度は案の定、ストーンを抱えた彼が何やら騒ぎ立てながら走り出した。取り巻いていた子供達のサークルがパッとほどけて、野っ原を駆け出す。マスクをあごまでずり下げた彼が、ストーンを抱えてそれを追う。

 聞き耳を立てていると、どうやら彼は「ミサイル」とか「キムジョンイル」とか思いつく単語を叫びつつ駆けているらしい。なるほど、今彼に抱えられたストーンは、北の要人が発射したミサイルであり、実に危なっかしい代物に見立てられたわけである。どうして今時彼らが「ジョンイル」を知っているのかはわからないが、彼らも彼らなりに昨今の世相を肌身に感じているのだろう。

 やがて「ミサイル」は発射されることもなく、再び公園の草の上に転がった。危機は回避された。束の間の平和の訪れである。(続く)