かたつむり学舎のぶろぐ

本業か趣味か、いづれもござれ。教育、盆栽、文学、時々「私塾かたつむり学舎」のご紹介。

定点観測(57) オレ、一番乗り

 「センセー! こども、産まれたの?」と、遠くから子供が尋ねるから、「おうよ」と応えるあたりには、既にして興味が失せたものらしく「教室はまだ開かないのか」「そしたら何か手伝おうか」なんて一丁前なことを言う。

 最初のうちはなかなか感心に働く。ファイルの入ったカゴなどをえっちらおっちら運んでくれたり、のぼり旗を所定の位置に差してこさせたり、意外に助かるものだからついつい気を許してしまって、「荷物だけでも教室にいれておくがよい」なんて言ったがさいご、どう取り違えたものか、ご丁寧に表を歩いてきた他の生徒まで呼びつけて、荷物と一緒にドヤドヤ入ってくると、そのままガヤガヤ居座ってしまった。

 まだ机も出していない集会所は、彼らの目にさながら児童館とでも写ったものらしい。ランドセルと一緒に車座になって一隅に座っていた遠慮は、コンマ数秒で消滅して、今度は探検がはじまる。「へぇ、こんなふうになってんだ!」「こっちにも部屋がある」「ジュースの段ボール発見」などと忙しなく教室内を巡回しては、何が面白いのかゲラゲラと喧しいことこの上ない。

 ちょっと手伝ってもらってしまった手前「やっぱり諸君、出て行きたまえ」とも言えないし、流石に机出しは手伝わせられない。「ねぇねぇセンセー、オレより早く来た人っている?」いるわけがない。時間にゆとりをもって一時間前から準備をはじめようとしていたところが、おかげさまでゆとりも何もあったものではない。

 されどこうして、同学年の子供達が教室の外で、どんなふうに遊んだり話をしたりするものかを知る分には、こんな機会がもってこいなのである。「へぇ、こやつは意外に面倒見がいいゾ」とか「この子は教室ではいつもネコをかぶっていやがるナ」とか、普段見ることのない一面は、教育のためなんてものより、その子の人間性を慮る上でたいへんに貴重な一次資料なのである。

 「オレ、一番乗り」は好いけれど、今度はもう少し静かにやっておくれかし。