かたつむり学舎のぶろぐ

本業か趣味か、いづれもござれ。教育、盆栽、文学、時々「私塾かたつむり学舎」のご紹介。

育児漫遊録(1) 序

 私の息子はとうとう妻の腹から出た。トツキトウカのよしなしごとは『子宝日記』に連載して参ったわけであるが、仕切り直すにはここらが丁度良い潮時のような気がするのである。

 それはひとつに、息子が腹から出てくる前と後では、私を取り巻く時間の流れが大いに変質したためである。妻の腹という皮一枚を隔てるだけで、その時々の事物の「語りやすさ」はおよそ質が違ってくる。

 以前はどこか他人ごとのようで、こちらのイメージをあれこれ投影して好き勝手に語れる対象であった我が息子も、今では生々しく私の前に現前して、あぶあぶと何事をか訴えてみたり、豪腕を振り回してパンダのぬいぐるみを殴り倒して飄々としている。

 息子という存在がどこまでもリアルに、父という呼称を得た私に迫ってくる。それはちょっとした脅威でもある。火の付いたように泣き、傲然とミルクをがぶ飲みし、わが手の中で湯船に漂う彼という存在を如何に受容すべきか。

 決して『漫遊』などと生やさしいものでは済まされないだろうが、これは私が息子という存在をどうにかして語ってやろうとする試みである。どこまで突っ放して、それを対象化して語ることが出来るか甚だ心許ないところではあるが、私の「語り」と息子という「リアル」のいずれが勝つか、ひとつ読者諸氏にその顛末を見届けていただく所存である。