かたつむり学舎のぶろぐ

本業か趣味か、いづれもござれ。教育、盆栽、文学、時々「私塾かたつむり学舎」のご紹介。

育児漫遊録(5) これは正解なの? Ⅰ


 用意した可愛らしいグリーンのベビー服に「着られて」産院から出てきた我が子を、はじめてチャイルドシートに乗せる。

 彼はベビー服を「着ている」のではなくて、どう見たって「着られている」としか形容することが出来ない。手は閉じられた胸のボタンの下でにょきにょき動いているし、おくるみを含め多岐にわたる布地に覆われているため、どこからが足であるのかだって大いに不分明である。

 これよりもっと小さいベビー服を用意すべきだったのか、いやいやこれはサイズ的に最も小さいものを選んだ筈である。となるとこれは妻の着せ方が悪いということなのか、しかしながらそもそも肩の来る位置に肩はないし、実際の腕の長さよりも袖の方がはるかに長い。つまるところ、我が子が一番小さい規格の服よりも小さすぎるのである。

 人間を抱きかかえているというよりも、何かゴワゴワした布の塊を丸抱えしている感じ。このままスルリと本体がすっぽ抜けて墜落してしまったら一大事である。そんな不安に次ぐ不安を抱えつつ、私はこの赤ん坊をチャイルドシートに据えねばならぬ。ウン十万に及ぶ会計のため、妻はまだ院内から出てこないし、たとい出てきたとしても彼女はむくんだ足で靴すら履けぬ状態であるからして、救援を要請するわけにもいかない。

 悲喜交々の思い出を重ねた産婦人科のこの駐車場で、一人の男が「正解の分からない」戦いを繰り広げている。かつては退院する妻と我が子を迎えに来る父親の姿を、エンジンを止めた軽トラの車窓からぼんやりと眺めていたものであったが、余裕綽々そうに見えた彼ら父親たちもまた、その内心は穏やかならぬものだったのであろうか。
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