かたつむり学舎のぶろぐ

本業か趣味か、いづれもござれ。教育、盆栽、文学、時々「私塾かたつむり学舎」のご紹介。

蝸牛随筆(31) でんしすと Ⅵ


 普請の建て付けを確認するかのように、私の歯が一本一本グラグラと揺すられている。先ほど私の歯茎を散々突き散らした切っ先に代わって、今度は鈍器のような太い金属の棒である。

 これは「動揺度」というものを測る検査らしいが、私の心の動揺度は凄まじいものがある。まさか「出血の有無」を確認されるとは思ってもみなかったから、そこで既に平静が失われて久しい。こんなことまで調べられるくらいである。下手をすると私の口腔内は最早、羅生門のごとく荒廃しており、歯周病菌やら何やらの有象無象が虫の食ったエナメル質と腫れ上がった歯茎を手当たり次第に引き剥がして日々の糧としたり、酷いやつになるといまだ健全な方の部材まで引き倒して腹の足しにしていたりするのではなかろうか。

 歯茎を押されている間中、そんな妄念が幾度となく頭の中を低回してやまなんだわけであるが、気がつけば口腔の異物は取り除かれており、頑迷に鯉の口を開け晒した男にお姉さんが「もうお口、ラクにしていいですよー」と呼びかけている。ふっ、と魂魄が戻った瞬間であった。

 悄然として口を漱いでいると、お姉さんが何やらせっせとタブレットに打ち込みしたのを、私の見やすい位置にセットしている。所々に赤が入った表は一瞥したところボーリングのスコアに酷似している。ボーリングを嗜まない私でもスラッシュ記号の片側が塗りつぶされているのを「おっ、結構スペアとれてんじゃん」ということが一目瞭然である。

 スコアらしきものは「61%」と出ている。なかなか良い感じなのではないだろうか。やはり数字で示してもらうと妙に納得するわけだが、さてこの「スコア」がどうして褒められるものでないらしいことは、おっつけお姉さんの解説を聞いているうちに判ってきたのである。