かたつむり学舎のぶろぐ

本業か趣味か、いづれもござれ。教育、盆栽、文学、時々「私塾かたつむり学舎」のご紹介。

蝸牛随筆(32) でんしすと Ⅶ


 はじめて歴とした歯科検診を受けて叩き出した「スコア」は、ずばり「磨き残し」のスコアであった。つまりこれが高ければ高いだけ、歯を適切に磨けていないということであり「61%」なんて数字に一瞬たりともぬか喜びした自分を激しく叱責してやりたくもあり、手鏡に映し出される染め抜かれた歯よりもなお赤面せざるを得ない私であった。

 こうなっては「普段からしっかり歯磨きをしていたのに・・・」なんて通用しない。それは「宿題をやろうと思ったけれど出来なかった。」並の陳腐な言い訳である。敗軍の将、戦を語らず。私はいい年をこいて歯磨きが出来ないオトナなのであり、それ即ち兜もプライドも未練なく抛ってデンタルケアーの軍門に下るより他にないのだ。

 歯ブラシを渡され、いつものように磨いてみよ、と促される。やむを得ぬ、さぁ、笑わば笑うがよいとばかりに決して良いとは言えない並びの歯にブラシをあてがう。正解なぞ分からないが、少なくとも私の磨き方が正解でないことだけは確かである。

 仕方がないから平時のごとく、ちょいとばかしブラシを傾けて歯と歯茎のあたりをねらう。お姉さんが「おっ」という顔をしたのが見えたけれど、赤く染め抜かれた歯を無心に磨いて見せていると、「どこかでブラッシングを学ばれましたか?」などと希有なことを尋かれた。

 誰かに師事したというわけではないが、これは学生の時分に羽鳥さんの朝の番組で紹介されていたのを、十年あまりせっせと毎日実践していたつもりだったのであるが、お姉さん曰くこの磨き方はナントカ法という歴としたブラッシング方法であるという。なるほど、方策はあながち間違いではなかったというわけだが、そのナントカ法を以てしてでも私の歯のスコアが「61%」であることは動かしがたい事実としてある。

 では何が悪かったのかしら。画面に表示された赤い印は歯の裏側に集中しており、奥へ奥へと向かうほど真っ赤っかに燃えていた。