かたつむり学舎のぶろぐ

本業か趣味か、いづれもござれ。教育、盆栽、文学、時々「私塾かたつむり学舎」のご紹介。

盆栽と暮らす(9) 波平さんのアレ


 陽の当たる縁側で、波平さんがぱちりぱちりと愛培の松を鋏んでいます。

 日曜日の記憶としてすり込まれたおなじみのアノ風景でありますが、実はアレ、とってもレアな作業なのです。

 かつては私も盆栽をはじめるまで、盆栽というものはああして波平さんだとか、時代劇のご隠居さんみたいにしょっちゅう松の樹をぱちぱち鋏む趣味だと思っていました。あたかも床屋みたいに伸びてきた葉っぱの先にちょんちょんと鋏を入れて、一鉢一鉢刈り上げているのだろう・・・と。

 ですから松盆栽の育て方についてお勉強した時は実に衝撃的だったわけで「えっ、あれって年に一回なの?」というのでも驚いたし「新芽なのに全部切り落とす」というその荒技ぶりにも度肝を抜かされた次第なのでした。

 その名も「芽切り」。

 春先から伸びてきた松の新芽を、夏ごろに一度全て根元からちょん切る。これは「短葉法」と呼ばれる方式で、そのままにしてしまうと伸び放題に伸びてすぐに樹形を乱してしまう松の新芽を一度そうしてシバキ倒しておいて、次に出てくる二番芽を可愛がるというのがその骨子であります。

 折角出した新芽を切られてしまうものですから、次に用意される芽は成長期を外される時期的な都合もあって必然的に抑制され、おまけに芽数も増えてくる(これは松の生存戦略なのでありましょう)。そのおかげで盆栽としての樹形が崩れることなく、従来の姿と大きさを保つことが出来るのです。

 時として盆栽愛好家とはその強すぎる盆栽愛ゆえに、驚くべき裏技を編み出すものらしい・・・。盆栽を学べば学ぶほど、いづれも樹との深い付き合いから生まれたであろう技術の数々に、唯々舌を巻くばかりであります。

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