かたつむり学舎のぶろぐ

本業か趣味か、いづれもござれ。教育、盆栽、文学、時々「私塾かたつむり学舎」のご紹介。

文房清玩(8) 定規 Ⅲ


●本に線を引く用の定規

 私は普段から本に線を引く。そうやって取っかかりを作っておくと、後から要所要所の議論に戻ってきやすいためである。専門書はもちろんのこと、小説にだって線を引いて自分の〈読み〉を立てる際のアウトラインを作っておかないことには、寝る前に歯を磨かぬのと同じくらい気持ちが悪いのである。

 それ故に私の読書には、定規と赤ペンが必須である。だから線を引くのに適した赤ペンと、本の紙面に押っつけるのに適した定規が必要になる。赤ペンの話をはじめると延々と脱線してしまいそうなので後日に廻すことにするが、本に線を引く定規は案外安価な、ペナペナした薄いプラスティック製のものに限る。

 もちろん色味はクリアーでないと話にならない。やたらと分厚かったり、押さえた部分の字面が確認できないものになると、本をキレイに汚すことがままならなくなるためである。活字の際をねらって定規をあてがうときに、これが分厚いとヘンに屈折してしまって線がズレたり、酷いときには活字の端を無惨に潰してしまうことにもなりかねない。

 だからこそペナペナと薄っこくて、押しつけたら押しつけただけ従順にフィットしてくれるものがよい。最早私の筆箱に入っているものは、罫線が擦れてしまってお世辞にも使い込まれた美しさとは言えない代物であるが、いざというときに望ましい活躍をしてくれる文房具こそ、使用者の思考を妨げない素敵な伴侶なのであろう。