かたつむり学舎のぶろぐ

本業か趣味か、いづれもござれ。教育、盆栽、文学、時々「私塾かたつむり学舎」のご紹介。

2023-03-01から1ヶ月間の記事一覧

文房清玩(5) ノート Ⅲ

「○○のノート」と定めて使い始めたはよいものの、それを定めてしまったが故に寧ろ使いづらくなってしまった経験を持っているのは私だけであろうか。ふと書き留めたいことが起こった時に、不幸なことに手持ちのノートが別の用途のそれであって、泣く泣くその…

文房清玩(4) ノート Ⅱ

私が日々使用しているノートは二種類。一つは万年筆で筆記する日記帳であり、いま一つはシャープペンなり鉛筆を用いて筆記する雑記帳である。まずは万年筆用のノートブックより話を進めて行くことにしよう。○「Premium C.D.NOTEBOOK」(方眼罫) こうして記述…

文房清玩(3) ノート Ⅰ

四月のノートが好きだ。 あの真っさらな一ページ目に書き入れる最初の文字は新鮮な緊張に満ちていて、そして妙に遠慮がちである。その緊張がいつまで続くかは人によるのだろうが、真っさらなページが遙かに優勢を占めている分、四月のノートには三月のノート…

絵本の時間(1) 『おべんとうバス』

お題「大好きな絵本は何ですか?」 子供のために絵本を買ったのは、これがはじめて。自分で読んだり、コレクションのために集めることはあっても、誰かのために絵本を買うというのは、今までやったことがあるようでやったことのない新鮮な経験でありました。…

育児漫遊録(2) スカーフェイス

頬に傷とアザのある我が子がワゴンに載せられて運ばれて来たとき、私は妙に納得したのである。 なるほどこんなのが股の間から出てくるのだから、どこかでつっかえるのは当たり前のことであるし、この足で腹筋の内側から蹴られれば、痛くないはずがない。顔は…

育児漫遊録(1) 序

私の息子はとうとう妻の腹から出た。トツキトウカのよしなしごとは『子宝日記』に連載して参ったわけであるが、仕切り直すにはここらが丁度良い潮時のような気がするのである。 それはひとつに、息子が腹から出てくる前と後では、私を取り巻く時間の流れが大…

弟子達に与うる記(25) 私の師匠Ⅲ

○関谷研の春秋 こんな春日の午後に、ふとあの研究室に帰って、いつものように先生とそこにたむろするゼミの人々にお茶でもいれたいと思う自分があります。 「研究室」と言っても、今めかしい白色煌々たる研究室ではありません。理数系の研究棟はすっかり建て…

弟子達に与うる記(24) 私の師匠Ⅱ

○愉しき「叩き合い」 後年、ネタばらしをしてくれたのですが、やはり私はまんまとハメられていたらしく、それを画策したのは他でもない師匠その人だったのです。 気にくわなかったり、到底興味を持てない必修授業についてはとことん不真面目であった私も、イ…

弟子達に与うる記(23) 私の師匠Ⅰ

○ようこそ、魔窟へ 私の師匠のモットーは来る者を拒まず。 学部の一年生。サークルにも属さず、同期とも連まず栄光ある孤立を保っていた私は、学内に居場所を持たない流浪の民でありました。キャンパス内の何かしらの団体に席を置く人々ならば、授業が入って…

塾生心得 「指導されたい!?」

学習塾の門を叩く生徒諸君および保護者の皆さまは、もしかすると「指導されること」を強く期待しているかも知れません。 「テスト対策はどうやって指導してくれますか?」と尋ねられても、私はおそらく曖昧な笑みを以て応えることでありましょう。なぜなら私…

文房清玩(2) 万年筆

「pomera」を使って「万年筆」のことを書くというのは、どうもヘンな感じがする。 ワープロで文章を書くことの利点は、もちろんその推敲のしやすさにある。とにかく書き留めておきたいことを自動記述よろしく書き出して、それをゴリゴリと削って整える…

文房清玩(1) 序

筆こそ使えないけれど、文字というものとお友達である以上、文房具とは切っても切り離せない付き合いを続けている。 それに対して常軌を逸した拘りがあるわけではないと自分では思っているのだけれど、ふとした拍子に文房具屋を覗いては、ちょこちょこと何や…

子宝日記(23) 軟禁パパと難産ママ Ⅸ

今の呼び出しが途切れたのは、ちょっとした手違いだった可能性はないか。妻が苦しい息のもとで通話ボタンと着信拒否のボタンを間違えて押してしまった可能性はないか。 もしそうだとしたら、向こうの分娩室の一同は今一度電話がかかってくることを当たり前の…

子宝日記(22) 軟禁パパと難産ママ Ⅷ

元来私はスマートフォンを用いてテレビ電話なんてハイカラなことをしたことのない人間である。「LINE」のことは「メール」と言うし、「スマホ」もとい「携帯」で撮る写真のことは「写メ」などと呼称する部類の人間である。 事実、LINEでテレビ電話が…

子宝日記(21) 軟禁パパと難産ママ Ⅶ

近いなぁ、イヤだなぁ。と思いつつ話の要所だけかいつまんで聞いていると、この婦長らしきおばさん、どうして聞き捨てならないことを言う。 「今ね、ママはね、とっても頑張っているんだけど、ちょっと疲れちゃってるみたいなの。」急なため口への転調はよい…

子宝日記(20) 軟禁パパと難産ママ Ⅵ

母子の休養を慮ってか、私が押し込められた個室には白色煌々たる蛍光灯がない。あるのは洒落たバーみたいな間接照明と、ベットサイドの読書灯ばかりである。 分娩台に行く妻を見送って四、五時間。この照明ではそろそろ本を読むにも心許ない。かといって缶詰…

子宝日記(19) 軟禁パパと難産ママ Ⅴ

軟禁。それはゆるやかな監禁の謂いであろうか。身体的な拘禁状態を監禁と呼ぶのなら、軟禁とは何らかの制度制約によって一個の人間をその場に拘留することを指すのやも知れない。 「パパはこの部屋を出ないでください。」と言われると、たちまち出たくなるの…

盆栽教育論(18) 針金と教育 Ⅳ

○効いたら速やかに・・・ 授業形態の如何に拘わらず、指導者の言葉ひとつ、アドバイスのタイミングひとつで、子供の理解や感じ方は大いに変わってきます。一対一で子供に向き合う時などにも、「よし、ぴったりおちた(理解した)」とほくそ笑んだり、「しまった、…

盆栽教育論(17) 針金と教育 Ⅲ

○ハリガネは美しく 幹枝にかける針金は交差させてはいけないし、巻きの途中でへんに隙間が空くようでもいけません。針金はいつも負荷をかける枝にぴったりと沿わせて、枝の太さに応じてその都度番手(口径)の違うものを掛け渡していきます。 ですから、枝先に…

子宝日記(18) 軟禁パパと難産ママ Ⅳ

グーを作って、そいつを妻の臀部にメリメリと圧し当てる。そうでもしないと、どうにも痛くてきばってしまうのだという。 そんな急場へぬるっと場面が展開したのは、昼を過ぎたあたり。それまでは痛みも散発的で、助産師のおばさんは「まだ有効な陣痛ではない…

子宝日記(17) 軟禁パパと難産ママ Ⅲ

さて、このマシーン。絶えず不穏な拍動を発しながら、秒送りで吐き出される用紙にダイアグラムみたいなチャートを刻印し続けている。第一印象は、カフカの「流刑地にて」に登場するマシーンであるが、これもまた縁起が悪い表現となってしまうので止そうと思…

盆栽教育論(16) 針金と教育 Ⅱ

○軌道修正としてのキョウイク 確たる目的もなしに下手な針金を掛ければ樹は枯れます。それもそのはず、樹の生育にとって針金など自身の肥大化を抑制するファクターでしかなく、まさに盆栽愛好家のエゴ百%。 健康でのびのびとしていて、それこそ大自然の中に…

盆栽教育論(15) 針金と教育 Ⅰ

○なぜ針金を巻くか テレビに映るような盆栽が、どうしてあんなに均整のとれた形をしているのかと申しますと、それは枝葉の一つ一つに至るまで、職人が丹念に針金をかけて整枝しているからに他なりません。 ここが盆栽と植木の大きく違うところ。針金というバ…

蝸牛随筆(22) 公園のストーン 後編

彼らがどこかへ走り去っていくのと入れ替わりに、別の少年が一人ストーンのところへ駆け寄ってきた。どうやらストーン遊びの一部始終を遠くから見ていたものらしい。 目を輝かせて、早速ストーンを抱えてみようとするけれど一向に持ち上がらない。さっきの彼…

蝸牛随筆(21) 公園のストーン 前編

公園の真ん中にストーンがひとつ。 「石ころ」と呼ぶにはあんまり大きくて、春の光を浴びはじめた芝生の只中にぽつねんと鎮座ましましている存在感たるや「ストーン」と呼ぶより他にない。 日が傾いて下校の鐘が鳴るころ、ストーンのまわりに子供達が集まっ…

子宝日記(16) 軟禁パパと難産ママ Ⅱ

お産の立ち会いに入るための検査を駐車場で受ける。ここまで来たら、すぐにでも妻の顔を確認してその無事を確認したいところであるけれど、それが出来ないのが今のご時世である。 心を落ち着けつつ軽トラの運転台で一五分、いつもの産院の駐車場で検査の結果…

子宝日記(15) 軟禁パパと難産ママ Ⅰ

私は「パパ」という名前ではないし、ましてやローマ教皇でもない。だのに、どうしてここの人々は初対面の私をして、さも昔からの知り合いであるかのように「パパ」と呼び、妻を「ママ」と呼称するのだろうか。 そんなどうでもいい違和感から、お産の立ち会い…

些事放談「コモン・センス」

とある教室のトイレが詰まった。 詰まりの原因はトイレットペーパーの芯を流したことによるもので、悪質なイタズラをした張本人は即座に突き止められて事情聴取が行われた。保護者にも事の仔細を連絡すると、のっそり現れて子供のやらかした不始末を詫びる。…

子宝日記(14) 魔の夜 Ⅲ

てっきり自分もまた中に入れるものだと思っていた。ところがどっこい、夜間入り口でスリッパを履きかけた私はまさかのゴー・ホームを宣告されて、二月の夜に立ち尽くす。 送ってきてもらった父は、ぶつけたワゴン車で去ったばかりであるし、最寄りのスターバ…