かたつむり学舎のぶろぐ

本業か趣味か、いづれもござれ。教育、盆栽、文学、時々「私塾かたつむり学舎」のご紹介。

文房清玩(12) 机 Ⅳ


三、学校の机

 四月は忙しい。なぜなら新しい教室の机をよくよく吟味しなければならぬからである。

 新しいクラスの新しい座席に着いた瞬間から、クラスメートの顔ぶれより先に気になるのは、机の塩梅である。身長も低く座高も低い人間にとって、先ず以て一発で適合する学校の机と椅子など無いと言っても過言ではない。

 机と椅子の高さをチェックするのと同時に、ガタガタ四隅を揺すってみて「ぐらつき」も精査する必要がある。ここでカッタンカッタンとなるようでは、向こう一年およそ落ち着いた勉強は出来ないのであり、たとい自分で机や椅子の脚に細工を施したところで、無遠慮な教室掃除係によって早晩どこかへ吹っ飛ばされるのがオチである。

 お次は天板を検める。これもよくよく気をつけないと前に使っていた人間が、すさまじとしか形容しがたい「記念」を遺しているおそれがある。「天才」とか書きかけの「夜露死苦」だとか、中には不断の努力でもって、天板を貫かんばかりの大穴を穿つ輩、定規でギコギコとこれの切断を試みる輩もある。

 先代が志半ばで頓挫した作品(?)を引き継いで制作に打ち込んだり、古い時代に開けられた縦穴群に一本ずつ丹念にシャーペンの芯を詰めていく人間や、アホみたいなメッセージに時を超えた返信を刻むお馬鹿さんもあって、最早こうなると検分を忘れてしばし、そんなヒマな人々の営為に見入ってしまう。

 大穴に、刀傷ならぬ「定規傷」は流石にイケナイものの、人々の手擦れのしたヘコみ跡や、指の腹に心地よいほどの傷くらいならば甘んじて許容せねばならない。いや、寧ろその学年を終える頃にはそんな傷の一つ一つが、何となく愛おしく感じられることすらあるからオモシロイ。