かたつむり学舎のぶろぐ

本業か趣味か、いづれもござれ。教育、盆栽、文学、時々「私塾かたつむり学舎」のご紹介。

育児漫遊録(38) 寝返った男 Ⅰ

 畳の上へ転がしておいたはずなのに、いつの間にか腹ばいになって、ニヤニヤ得意そうにこちらを見ている。両手を突いてぐんと頭を伸び上がらせる様子はまるで、どこかの展望台にはじめて上がった人の風情である。

 この男、ついと昨日までこんな芸当は出来なかったのであるが、つい先刻、突如として出来るようになったらしい。早い赤ん坊では生後半年も経たないうちに、もうころころ転がっている児もあると言うが、果たしてウチのはいつになったらいっぱしの寝返りを打つようになるのだろうと、ちょっと・・・いささか、いや、けっこう気を揉んでいた矢先であった。

 寝返りを成功させた当の本人はというと、急に自分の視界が変わったのが面白かったか、得意げに辺りを見回して、それを見せつける相手があることを確認するとこちらを向いてニヤニヤ笑っている。

 「寝返ったな」と言うと、最近生えてきた二本の歯を覗かせて「へへっ」と不敵な笑いを返してくる。昨日まであれほど横を向いたままウンウン呻っていたのが、まるでなかったことのような顔ではないか。

 足を返してすっかり横向き寝の体勢にはなるのだが、あと一歩のところで力尽きる。腕の位置が悪いのか、頭の上がりが今ひとつなのか、本人は瀕死の悟空みたいな声を喉の奥から絞り出しながら畳の上に這いつくばっていたわけであるが、いったいぜんたい如何なる拍子で出来るようになったものか。

 それは自転車に乗れるようになる時のようなもので、どこかの筋肉が規定値以上に発達したと言うよりかは、どこの筋肉をどう使えばよいのかのコツを掴んだという感じなのかも知れない。

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