かたつむり学舎のぶろぐ

本業か趣味か、いづれもござれ。教育、盆栽、文学、時々「私塾かたつむり学舎」のご紹介。

軍隊学校之記(17) 加奈陀旅行記Ⅰ

 スチームに蒸されて暑いのか寒いのか判然としない寝室の分厚い窓には、厳かな冬の夜が来ている。時差ボケに悩みつつ輾転反側しているうちに、夜も大分更けたらしいけれど、隣の部屋からは、先ほど地元のパーティーから帰宅したらしいカナディアン・カップルの睦言が聞こえていました。

 と、これは紛れもない私の高校時代の思い出であります。場所は、十一月も末のカナダ。見知らぬ国の見知らぬ部屋の天井を眺めている私は、猛烈な望郷の念に駆られておりました。

 今はどうか分かりませんが、十一月のカナダ行きの切符はたいへんリーズナブルであったそうで、それに目をつけたわが軍隊学校が「海外研修」というのを企てていたのです。

 五泊七日、生まれて初めて飛行機というものに乗る。太平洋上で乱気流に揉まれ、およそ一日がかりでカナダへ逢着すると、その日のうちに、宿泊先となるホスト・ファミリーの家に引き渡される、なんともムダのない段取り。

 何でも向こうは到着した途端に、もう一度今日がはじまるわけで、頭は寝不足でぼんやりしているし、かといって世話になる家の人々に気を遣わねばならぬし・・・これを今の年になってやったら、着いて早々人の家のベッドにどっと寝付いてしまうというものです(笑)。

 私は出来れば、まだ行ったことがない京都とか、日光などをゆっくり見物したかったのですが、そこは軍隊学校、たとい修学旅行といえどもそんな物見遊山などさせてはくれません。

 修学旅行=語学研修。英語しか話さない人々の中に、英単語と例文をパンパンに詰め込んだ訓練生を投げ込んでおいて、実地で英語の練度を上げよという意図が見えすぎるほど見えています。

 それにしても、第一のショックはやはり、自分の英語が全然通用しないのを思い知った瞬間でありました。(次回へ続く。)