かたつむり学舎のぶろぐ

本業か趣味か、いづれもござれ。教育、盆栽、文学、時々「私塾かたつむり学舎」のご紹介。

育児漫遊録(7) これは正解なの? Ⅲ


 肩らしき部分にパット付きのショルダーベルトをあてがい、何となく股だと思われるあたりに見当をつけてベルトをロックする。

 いよいよ正解が分からない。どう頑張ってもショルダーの位置に然るべきショルダーを用意することは出来ないし、お股は折り重なる布地の襞と襞のあわいに埋没して行方が分からない。とりあえず揺すってみて落っこちる気配はないし、急ブレーキがかかってもひょいと飛び出すことはないだろう。

 何せ布の塊のようなものに幾重にも及ぶベルトを渡しているのだから、チャイルドシートの本領は発揮できぬやも知れないが、これだけやれば「固定」は完了しているに違いない。見よ、固定された我が子はそんなことなど何処吹く風、布とベルトの嵐の只中ですうすうと寝息を立てているではないか。

 これは「正解」ではないかも知れないが、とまれこうまれ私は「正解」らしきものを一つ、また一つと積んでいくより他に方法がないのだ。正解が多くなればそれが「正解」になる、なんてご都合主義的な決着は好まないけれど、おそらく子育てに確たる「正解」などないのだろう。

 未踏の荒れ地を行くように。無数の選択肢と無数のイレギュラーとのあわいを行くように、私はそして妻は出発していかなければならぬのである。覚束なく踏みしめた一歩の先に、何かしらの花が咲いていればそれでよいではないか。

 実家から借りたワゴン車がのっそりと動き出す。腹に居た時から聴かせていた「おさるのかごや」が盛大に鳴っている。お客はチャイルドシートに埋もれて正体が分からないが、えっさえっさと車を走らせて私はこの正体不明のお客を、何よりも安全に家居へ運ばねばならない。安全第一。どうやらこれだけは正真正銘の「正解」であるらしい。