かたつむり学舎のぶろぐ

本業か趣味か、いづれもござれ。教育、盆栽、文学、時々「私塾かたつむり学舎」のご紹介。

育児漫遊録(24) メリー大好き男 Ⅳ

 メリーを製造販売しようと思った企業の開発担当者が、端っから「よし、デラックスメリーをつくろう!」とするはずがない。スタンダードなメリーがあるからこそ、デラックスがあるのであって普通のラーメンがあるからこそ特盛りラーメンを拵えてみたくなるのだ。

 私が見つけたスタンダードなメリーは、棚の奥に逼塞しているようにも見受けられたが、それはよもや他のデラックスだとかディズニーメリーに気圧されるあまり、その存在を忘れられたわけではなかろう。価格的にもはるかにリーズナブルで、私が願う機能(・・・といっても音楽を掻き鳴らして回ればよい)も搭載している。

 となると棚の奥に一個というのは、他が二個も三個も在庫がある中で、スタンダードメリーが売れに売れていることの証左ではなかろうか。デラックスに比して二千円、プーさんメリーに比して五千円ほど安い理由は、おそらく歌のレパートリーだとか、その下がっているものに因るのだろうが、棚奥から引っ張り出して検めたところ、それはたいへん能くまとまった製品であることが確認された。

 曲だけでも十曲は入っている。私や弟が眺めていたあの頃のメリーに比べれば、それだけでも十分たくさんであるし、第一吊り物に統一性があるところに好感が持てた。デラックスでは無印な熊にロボットに、キラキラした何かがてんこ盛りにされた印象であったが、あれこれ吊したい欲をぐっと抑えたところにスタンダードメリーの美徳があるのだ。

 是非もない、私はその箱を小脇に抱えてレジへと向かう。たとい「おやすみタイマー機能」がなくたって、つかまり立ち補助具への変形が出来なくたって、そこは不断の努力と工夫で補えば万事オーケーではないか。

 さて、我が子はどんな顔をしてこのメリーを迎えることだろう。こうなってくると、親馬鹿というのもちょっとした趣味である。