かたつむり学舎のぶろぐ

本業か趣味か、いづれもござれ。教育、盆栽、文学、時々「私塾かたつむり学舎」のご紹介。

育児漫遊録

育児漫遊録(40) 寝返った男 Ⅲ

両足の蹴っ張りが推進力となることを、もしかするとこの男は理解しているのだろうか。 トムとジェリーであれば、こんな風に両足が空回りしていてもピューンと矢のように進んでいくのに、我が子の前進はいまだ仮想の域をでないようである。 畳でこれをやると…

育児漫遊録(39) 寝返った男 Ⅱ

さて、寝返ったはよいものの周りを見渡す以外に、この男、別段何をする様子でもない。ただ時折、突っ張っていた両手を離して腹でバランスを取ろうとする様子が見られる。その拍子で両手同様、両足もまた宙に浮いてバタつく姿は、虚空を泳ぐようでもあり、も…

育児漫遊録(38) 寝返った男 Ⅰ

畳の上へ転がしておいたはずなのに、いつの間にか腹ばいになって、ニヤニヤ得意そうにこちらを見ている。両手を突いてぐんと頭を伸び上がらせる様子はまるで、どこかの展望台にはじめて上がった人の風情である。 この男、ついと昨日までこんな芸当は出来なか…

育児漫遊録(37) 頸は燃えているか? Ⅲ

六ヶ月を迎えた我が子の頸は、あの頃のぐちゅぐちゅの真っ赤っかがウソであったかのようにキレイになった。 もちろん、お医者さんをはじめとする医院のみなさんのセカンド、サードの助言と、自分で言うのもなんであるが我々夫婦が一日二回せっせと洗って、保…

育児漫遊録(36) 頸は燃えているか? Ⅱ

我が子の頸は燃えている。 このままでは頸がぐちゅぐちゅの赤ん坊になってしまう。ただならぬ危機感に苛まれつつ、私と妻は頸の炎症が進む根本的な要因を話し合った。 第一に彼の頸は例のむちむちに閉ざされていて、洗いにくいこと甚だしい。ベビーバスの中…

育児漫遊録(35) 頸は燃えているか? Ⅰ

生まれてこの方、鉗子で引っ張られた痕こそ痛々しかったけれど、あっちこっちがむっちりむちむちで、これぞ健康優良児と思い込んでいた親馬鹿は電撃的に打ち砕かれたのであった。 「頸の方がちょっとアレかなぁ。」 まだ頸もすわらない時分であったか、我が…

育児漫遊録(34) ミルトンよさらば Ⅲ

おかげさまで、先日我が子はついにミルトンを卒業した。つまり離乳食が開始されたのである。 物の本によると哺乳瓶等の消毒は、離乳食の開始時期ごろまでと説かれており、ということはそろそろ何だかんだと免疫が付いてくるのが、このくらいの時期なのだろう…

育児漫遊録(33) ミルトンよさらば Ⅱ

「コスパ」ばかりではない。最近は「タイパ」などと略して費用対効果ならぬ時間対効果もまた消費行動ならびに、日常生活の様々な価値基準に組み込まれることがあるらしい。 ならばこの「ミルトン」は、日に一度ならず大鍋に湯をぐらぐらと湧かす必要がない分…

育児漫遊録(32) ミルトンよさらば Ⅰ

大鍋にぐらぐら湯を沸かして、毎晩のように父や母が弟の使った哺乳瓶を煮ていたのを覚えている。 煮沸の時代からいつの間にか、世は「ミルトン」の時代になったらしい。会う親戚ごとに「哺乳瓶を毎晩」というお話しを伺ったわけであるが、ミルトンの有り難さ…

育児漫遊録(28) 注射の心得 Ⅲ

かつて私の母は、これから注射を受ける幼い私に「痛いぞ、痛いから泣くなよ。」と言って聞かせたそうである。 なぜそんなことを言ったのか尋ねたら、何と言うことはない「痛くないわけがないから」だそうである。なるほどこれは一理ある。 方便とはいえ「痛…

育児漫遊録(26) 注射の心得 Ⅰ

一体何発打つんだ? 母子手帳を開いてまず驚いたのを覚えている。見開きに細かな字でびっしり、ありとあらゆる種類の予防接種が並んでいる。「水疱瘡」や「おたふく」「はしか」「BCG」あたりは私もやったり罹ったりした覚えがあるけれど、「ビフ」だとか…

育児漫遊録(25) メリー大好き男 Ⅴ

メッサーシュミットを模したような戦闘機が二機と、近未来的なフォルムをしたヘリコプター二機とが入り混じれて我が子の頭上をぐるぐると旋回している。 もしかすると曲目の中に「ワルキューレの騎行」でもあるのじゃないかと箱書きを確認してみたが、シュー…

育児漫遊録(24) メリー大好き男 Ⅳ

メリーを製造販売しようと思った企業の開発担当者が、端っから「よし、デラックスメリーをつくろう!」とするはずがない。スタンダードなメリーがあるからこそ、デラックスがあるのであって普通のラーメンがあるからこそ特盛りラーメンを拵えてみたくなるの…

育児漫遊録(23) メリー大好き男 Ⅲ

「おれのメリーはさぁ、プーさんのメリーだったんだよ。しかもデラックスのやつでさぁ。」「あっ、わたしもわたしもー!」「ぼくも同じのだったよ。なっつかしいなぁ。」 将来我が子が幼稚園か何かに通い始めた時に、同期からそんなことを自慢されて、自分の…

育児漫遊録(22) メリー大好き男 Ⅱ

西松屋のどこに何が陳列してあるか、だいたい飲み込めて来た私は玩具コーナーを目指してずんずん店内を進んでいく。途中ミルク売り場を過るに及んで、ちらっと「明治ほほえみ」の値段などを確認したが、なるほど今日は特売でないとみえていつもの定価である…

育児漫遊録(20) 上から下から Ⅳ

調べたところによると、排便の頻度は子供によってかなり個人差があるということである。 一日一度、オトナみたいにまとめて出すことが多い我が子であるが、時にその帳尻が狂って出し損ねる日がある。すると彼の腹はぽっこり小山みたいに張り出して、四六時中…

育児漫遊録(19) 上から下から Ⅲ

あんまり頻繁にゲーゲーしているものだから、流石に心配になって小児科の先生にも相談した。するとこの月齢的には胃袋の構造上仕方の無いところがある、とのこと。これは時間が解決するたぐいのものであるそうだ。 それはそうと、ゲーよりも寧ろ先生の診断は…

育児漫遊録(18) 上から下から Ⅱ

転がされているだけなのに、やたらニコニコしている時がある。そんな折りは「あら、めんこい!」なんて、家人が群れ集うのは自然の理であるけれど、ゆめゆめ油断してはならない。満面の笑みと共に大量のミルクが吐き出されて、わが家のお茶の間は阿鼻叫喚の…

育児漫遊録(17) 上から下から Ⅰ

甚だ尾籠な話でありまして、お食事中の方々におかれましては、どうかお済みになってからお読み頂きたくお願い申し上げますことには、赤ん坊というもの、のべつまくなしに「上から下から」あれやこれやを出すこと頻りであって、赤ん坊の赤裸々なところを語る…

育児漫遊録(15) 授乳夜話 Ⅳ

私はミルクも乳も飲まなかったと言う。 幸いにして我が子は私に比べればどちらもいける口であるし、その点だけでも遙かに育てやすいはずだ、と私の母親は言う。そうは言っても目の前で火の付いたように泣きしきる新生児と相対する午前三時は「すさまじ」とし…

育児漫遊録(10) 沐浴エレジー Ⅲ

赤ん坊用のバスタブに湯を汲み入れる。そのうちに彼を風呂桶の蓋の上に寝かせて、身ぐるみ剥がす予定であったわけであるが、コトはすんなりと進行しない。 ふにゃふにゃと直ぐにその所在が分からなくなる腕は奇しくも頑強に肘を突っ張って、脱がせようとする…

育児漫遊録(2) スカーフェイス

頬に傷とアザのある我が子がワゴンに載せられて運ばれて来たとき、私は妙に納得したのである。 なるほどこんなのが股の間から出てくるのだから、どこかでつっかえるのは当たり前のことであるし、この足で腹筋の内側から蹴られれば、痛くないはずがない。顔は…

育児漫遊録(1) 序

私の息子はとうとう妻の腹から出た。トツキトウカのよしなしごとは『子宝日記』に連載して参ったわけであるが、仕切り直すにはここらが丁度良い潮時のような気がするのである。 それはひとつに、息子が腹から出てくる前と後では、私を取り巻く時間の流れが大…