メッサーシュミットを模したような戦闘機が二機と、近未来的なフォルムをしたヘリコプター二機とが入り混じれて我が子の頭上をぐるぐると旋回している。
もしかすると曲目の中に「ワルキューレの騎行」でもあるのじゃないかと箱書きを確認してみたが、シューベルトやブラームスこそあれワーグナーの名は見当たらなかった。機体上空にはそれぞれ雲が配され、いずれも同高度を飛行している様子が見受けられるが、この戦闘機のパイロットはヘリの速力までに推進力を抑制しながら、寸分違わぬ間隔を維持している。これは素人目にも分かる超人的な飛行テクニックである。
それはそうと、肝心の我が子は眠かった目をこすりつつも、突如頭上に出現したメリーに早速反応を見せ始めた。脚をどんどんバタつかせて畳を蹴り、それに応じて息づかいも段々激しくなってきている。円環の中心には緑の鈴が配されていて、これを時折ツンと突いてやると、シャンの音に反応して彼のテンションはさらにヒートアップしてゆく。
これは最早「ブラームスの子守歌」どころの騒ぎではない。流れる曲はみながらロックライブよろしく、我が子の心をがっちり鷲づかみにして止まないのだ。どうやら彼は私にも増してメリーが好きで好きで仕様がないらしく、ヘリコプターにタッチしたり紅の戦闘機をどこまでも追視したり、眠気など忘れて身体一杯で興奮を露わにしているではないか。
メリーのウケは私の想定をはるかに超えた点に於いて大満足の結果であったわけであるが、ひとつの弊害もまた生じるにいたった。
曰く、メリーを見せている間中、彼は一睡もしないのである。スタンダードメリー恐るべし。それから毎夜のごとく、この文明の利器は深夜にこっそりとしまわれることになったのであった。