かつて上方出身の友人に「下から伝い登って仏壇へ入るご先祖様の諸生霊」の話をしたところ、目を丸くして驚いていたのを覚えている。その友人曰く「実におどろおどろしい感じであるし、土着的な信仰の匂いがある。」とのこと。
「そもそも霊体が地を這っている、という発想がアバンギャルドじゃないか。」というので「幽霊にはホラ、足が無いっていうから。」と返して酒席の一笑となったのだが、そう言われてよくよく考えてみると不思議な発想であり風習である。確かに応挙の幽霊には足がないけれど、彼女は柳の下にすっくと浮いているではないか。
これが単にわが家の中で変形していった一ルールであるのか、誰か他家から家に入った人が伝え混淆せられていった習俗なのか、およそ分からないことだらけである。
分からないついでにもう一つ。わが町の盆の墓参りは一二日の夜というのが変わらぬ習わしである。これも「夜に墓参りをして、他の所より一日早く家に連れてくるのだ」と言うと、やっぱり変わっていると言われる。
この日の晩に迎え火を焚いて、ぞろぞろとお寺まで歩いて行くのだが、墓参りを済ませると(これはわが家の場合であるけれど)「ホレ、ちゃんとじいさん背負ったか?」と聞かれたものである。やはり、わが家の中では霊体はとことん自力歩行が難しいものとしてイメージされているらしい。
そうして家に帰ってきて仏壇に到着すると、「じいさん仏壇さ降ろしてやったか?」と来る。なかなか徹底した設定であるけれど、私も背負いっぱなしは何となくオソロシイので、この歳になっても一度仏壇に背を向けて降ろすマネをする。そうしないと気が済まないと言った方が正しいのやもしれない。
そんなことも含めて、盆は今も昔も、いや、ひょっとすると私の知り得ぬ時代におけるわが家の「にほひ」を濃く伝えるものであるようだ。