かたつむり学舎のぶろぐ

本業か趣味か、いづれもござれ。教育、盆栽、文学、時々「私塾かたつむり学舎」のご紹介。

盆栽教育論(3) 鉢に入った子供Ⅱ

○土と家庭

 「自然状態」の「本来の姿」の子供なんてものが初めから存在しないように、もちろん「自然状態」の盆栽なんてものも存在しないのです。そんなのは、ただの樹であって盆栽ではないのだし、「狼少年」だって狼の規範と環境を与えられて育てられた子供に過ぎません。われわれの前に現れる子供も盆栽も、漏れなく「鉢」という「環境」と切り離しがたく生きているのです。

 鉢に入った樹も、如何なる社会や家庭に生きる子供も、およそ誰かの手が入らないことには生存が危ぶまれてしまいます。つまるところ両者は、一人で生きていくことがままならない、という点において何ら変わるところがないのであり、そうした存在である以上「与えられた環境」によって、その成育状況に驚くほどバラツキがでるところも一緒なのです。

 盆栽の生育に欠かせないのは、光であり水であり、そして「鉢」の中の環境、つまりは土壌であります。この土壌をつくるために、愛好家はその樹の生育に適した種類の用土やpH、保水力などを計算して、根を張りやすい環境を拵えます。もしここでテキトーなあり合わせの土や、選別のされていないゴロ土などで間に合わせようものなら、植え替えは大失敗、たちどころに根腐れを起こしたり、葉をふるってしまうことでしょう。

 よく吟味された土壌に育つ盆栽が、手をかけただけの成長を見せるように、素敵な家庭環境を与えられて育てられた子供は、情緒面そして語彙力の面において目に見える成長ぶりを発揮します。同学年の子供であっても、これほどまでに差が出るものか・・・各家庭の親たちはこれを知る機会にめぐまれていませんが、教育現場の人間はそれをよく知っています。

 風通しのよい土が根の生育を促進し、そこから効率のよい水や栄養の吸収を可能にするように、豊かな言葉に囲まれて育った子供の言語能力や、情緒面の安定は、そのまま彼らの学力に直結してくると言っても過言ではないのです。。