我が子の頸は燃えている。
このままでは頸がぐちゅぐちゅの赤ん坊になってしまう。ただならぬ危機感に苛まれつつ、私と妻は頸の炎症が進む根本的な要因を話し合った。
第一に彼の頸は例のむちむちに閉ざされていて、洗いにくいこと甚だしい。ベビーバスの中で何とか肉の襞を分けて根元を洗うけれど、やはり洗い残しがあって、それが悪さをしているのかも知れない。
そして第二の要因は彼の吐き戻し癖である。年中二日酔いばかりしている父親の悪習を踏襲しているのか知らん、我が子は生まれてこの方ミルクを飲む度に、人の見ていないスキを突くようにゲーと吐き戻す。もしかするとキレイに拭き取ったつもりでも、その吐き戻されたミルクがむちむちの頸に回っているのやも知れない。
こうして私たち夫婦は考え得る要因を一個ずつ潰していくことにしたのであるが、果たして戦局はそう簡単には覆らない。ただでさへ爛れている頸の皮膚を、キレイにするからと言ってゴシゴシとやるわけにはいかないし、慢性的な寝不足のみぎり、夜半に起こるサイレント吐き戻しに直ぐと対応できるわけもない。
一週間に一度小児医院へ通ううちに、最弱であった塗り薬は一段、また一段と強力なものになってゆく。やはりステロイドは目覚ましい威力を発揮するゲームチェンジャーであったが、薬剤師のおじさんに「薄くね、薄く」と心配そうに念をおされると、どうしてそれも諸刃の剣のような気がしてしまう。
塗っては吐き、拭いては塗ってを繰り返す一進一退の攻防は約二ヶ月におよび、三番目の強さの塗り薬でようやく戦況は好天の兆しを見せ始めたのであった。