かたつむり学舎のぶろぐ

本業か趣味か、いづれもござれ。教育、盆栽、文学、時々「私塾かたつむり学舎」のご紹介。

育児漫遊録(13) 授乳夜話 Ⅱ


 「そんな苦労も今ならではの苦労だから」と言われたこともある。なるほどこれは一理ある。私の頭が白くなったあたりに、目尻をだらしなく垂らすなどして、この息子や孫にそんな事を申しているような気がしないでもない。

 さはれ頭では分かっているけれど、実際にコトに直面している人間には「ならでは」を愉しむゆとりがなくて困っちゃうのである。人間の睡眠は一時間半のスパンで一周期と言うが、その途中で起こされるとどうにも立ちゆかなくなるもので、途方もない重力によってベッドに押しつけられている感の強い寝起きなどは、きっと深い眠りの谷の底の部分に中るのだろう。

 もっとも痛切にツライと感じるのはそんな時である。響き渡る我が子の泣き声に急き立てられてのっそりと起き上がると、ぬばたまの夜がカーテンの隙間から顔を覗かせて「眠いだろう」とあざ笑うかのようである。

 最初の一日目は気力体力ともに十分、新たな環境への好奇心から率先して起き出してみたりなどしたものであるが、流石に朝方にはコトの大変さが分かってきてしまった。いまだ体力の戻らぬ産後の妻は経過こそよいものの、昏々と眠っていることもしばしば。

 それもまた産後「ならでは」のことであるから仕方がないとして、腹の大きな妻が想像を絶する切った張ったをしているのを尻目に、のうのうと書物を開いたりせっせと駄文をものしていた夫は、いまこそその分のツケを払わねばならぬということなのであろう。

 寝起きの頭に懇々と説教しつつ、そうして私は我が子に今晩何度目かの「こんばんは」をする。